エピローグ&プロローグ

第24話:嗚呼、隠居生活

「……なあ、サラ」

「……何でしょうか、グレン様」

「……平和だなぁ」

「……左様でございますね」


 アレス達と別れてから三ヶ月が経った。

 今日も今日とて誰もやってこない辺境の奥の奥の更に奥地でゆっくりと過ごしておる。

 勇者が多くいると知ってからは転移で魔境のあちこちに移動してめぼしい勇者がいないか見て回ったりもしているが、アレスやギャレス程の素材には出会えなかった。

 あれ程の才能を持った奴らが簡単に生まれれば魔境も危うくなるのでそれはそれで安心なのだが、それが楽しいかそうでないかと言われれば、そうではないのじゃ。

 現魔王に変わった今でも勇者達が魔王城に到達したということはないのだから、当然といえば当然である。


「あいつらはうまくやっているかな」

「どうでしょうか。見に行かれてはいかがですか?」

「……俺はそこまで過保護ではないぞ」

「うふふ、そうでしたね」


 アレス達と別れてからというもの、我は一度も動向を確認したことがない。

 彼奴らなら大丈夫だという自信もあるし、わざわざ見に行く時間がもったいないと思っているからじゃ。

 ……ほ、本当じゃぞ! 別に、何処にいるのか知らないわけではない! 今だって彼奴らの気配がどの辺りにいるかぐらいは分かっているのじゃ! それでホッとしているわけでもないんじゃぞ!


「……なあ、サラ」

「はい、グレン様」

「元の姿に戻ってもいいのではないか?」

「それでは面白くありません。そのままでいきましょう」

「じゃがのう」

「言葉使い!」

「は、はいっ!」


 うぅぅ、ドレイウルゴスがサラの姿になってから我への当たりがきつくなっておるから元に戻ろうと提案しているというのに、何故か頑なに戻ろうとはしてくれん。

 我も別に今の生活が嫌ではないのだが、一応主人と執事なのだぞ? そこはしっかりと理解しておるのだろうな?


「それでグレン様、今日はどちらに参りましょう」

「うーん、あらかた魔境の入口や中腹は転移し尽くしたからな。魔王城付近に勇者がいるとも思えないし……今日もゆっくりしてていいんじゃないか」

「分かりました、そのように――んっ?」

「おぉ、珍しいなぁ。誰かが結界内に入ってきたか」


 我が施している結界に何者かが侵入してきたようじゃ。

 魔境入口近くの洞窟に置いていた転移魔術具は回収しておるから、そこからの侵入ではない。

 であれば付近を哨戒していた魔族であろう。

 面倒臭いが結界内をうろちょろされても気が散ってしまうのでさっさと追い払おうかのう。


「元のお姿で行かれた方が良いのでは?」

「ん? おぉ、そうだな。このままだと敵だと思われて攻撃されても仕方ない」


 魔法陣が浮かび上がり我を光で包み込む。変化魔法が解かれて久しぶりに本当の姿を目にした我は、やはりこの姿が一番落ち着くことに気がついた。


「……のう、サラよ。やはり元の姿に――」

「さっさと片付けてグレン様に戻りましょう。でないとゆっくりできませんから」

「うおっ! お、お主はいつの間に元の姿に戻ったんじゃ!」

「同じタイミングで戻りましたよ。ほら、さっさと行きますよ」


 ドレイウルゴスに戻っても態度はサラのままじゃないか。お主、このまま我を下に見るつもりではないじゃろうな。

 ……いや、ドレイウルゴスに限ってはありえんか。


「分かった、行くとしよう」


 外に出たら我らは魔境の植物をなぎ倒しながら侵入者がいる場所へと一直線で進んでいく。

 数秒で到着した先にいたのは――まさかの人間である。


「ぎゃああああぁぁっ! ……バタン」

「きゃああああぁぁっ! ……キュー」


 ……な、何なんじゃ、こいつらは。

 とりあえず何処から現れた! 魔境の奥の奥の更に奥地じゃぞここは!

 サラに目を向けるが首を横に振るだけじゃし、むむむ。

 仕方なく気絶してしまった人間をまじまじと見ていると、背中に何やら魔法で隠された魔術具を見つけた。

 首を傾げながら拾い上げ、我はそれを起動させた。すると――。


『――あーあー、聞こえるかな、ギャレスだよー。この子達は将来有望な勇者の卵だから、君に預けようと思う。よろしく頼むねー!』


 ……ふ、ふざけるなー! 彼奴は我を教官かなんかと勘違いしているのではないか!

 それにこの魔術具、声音保存魔術具ではないか! これも相当に貴重なもので、こんなことの為に使っていいものではないぞ!

 それにこの勇者も勇者じゃ! 我の姿を見ただけで気絶するような奴が将来有望なわけないじゃろう!

 サラに転移魔法で魔境近くにある人間界の村に飛ばしてもらおう――そう思った時じゃ。


『――師匠! その子達のこと、よろしくお願いします!』

『――サラ様! 私はいつまでもサラ様を想っております!』


 …………ぐぬぬ、ニーナの言葉は置いとくとして、アレスにまで言われてしまうとのう。


「うふふ、親心ですか?」

「そんなんじゃないわい! ……じゃがまあ、アレスの頼みなら、預かってやらんでも、ない」

「そうですか。それならば、さっさと運んでしまいましょう」

「……う、うむ」


 そのような満面の笑みでこっちを見るでない!

 全く、サラもサラで楽しそうではないか。

 ……いや、そうでもないのか? 何故にそんな険しい顔をしているのじゃ?


「……この二人、どちらも女ですね」

「そうじゃな。それがどうしたのじゃ?」

「……あいつ、次に会ったら絶対に殺す!」


 えっ、いや、何のことじゃ! わけがわからんぞ!


「こ、こいつらには罪などないぞ!」

「もちろんですとも。私が殺意を覚えているのはギャレスただ一人ですから!」


 何やら修羅場になりそうな勢いじゃが……うん、我は一切の関与をせんぞ。

 頑張るんじゃギャレス、そしてサラは少し落ち着け。

 アレスは……あぁ、ぽかんとしている表情が目に浮かぶぞ。ニーナは嬉々としてサラに力を貸そうとしている姿が目に浮かぶのう。


 ――我の隠居生活。当分の間は忙しくなりそうじゃわい。


第1章 完

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