出会い色々
第28話:自由剣士
我が転移した先は魔境――ではなく、人間界の辺境にある村のすぐ外じゃ。
彼奴はあろうことか、我が魔王を退いてからの五十年間、ずっと人間界で暮らしておる変わり者じゃ。
我も会うのは久しぶりじゃから、彼奴が覚えているかどうか。それに、今はグレンの姿をしておるから覚えていたとしても気づくかどうか、そこが問題じゃのう。
門兵に軽く挨拶をして村の中に入る。やはり我の正体に気づける人間などそうそういないであろうな。ギャレスは
迷うことなく一つの家の前まで来た我は、扉をノックしてから声をかけた。
「――ジャルバラン、いるか?」
人間界での名前を知らなんだ我は、魔族としての彼奴の名前を口にする。
中にいる彼奴の気配が警戒から剣呑へと変貌するが、我は構わずに言葉を続けた。
「安心せい、我じゃ」
「……まさか!」
驚きの声とほぼ同時に開け放たれた扉の奥から、一人の青年風の男が顔を覗かせる。
我の顔を見て最初は怪訝な表情を浮かべたものの、すぐに我が元魔王であることを悟ったのか、満面の笑みを浮かべてくれた。
「ま、まお――」
「ここではまずいから、一度中に入れてくれるか?」
人間界の村の中で魔王と声を大にして発しようとしたジャルバランの口を押さえて呟くと、無言のまま何度も頷いてくれたのでホッとする。
周囲からは何事だと視線が殺到したが、元魔王だとバレなければ問題ないのじゃ。
「あはは、大丈夫ですよ。僕の古い友人ですから」
「なんじゃ、バランさんの友人かい」
「驚いちゃいましたね、お爺さん」
ジャルバランは人間界でバランと名乗っているようじゃ。そして、この村では意外と顔が通っているようで驚いてしまったわい。
「ささ、中へどうぞ」
「お、おう」
家の中に入ると、バランはすかさず結界魔法を発動して遮音対策を講じてくれた。
「……あなた様は、魔王様なの、ですかい?」
「今は隠居したから違うのじゃが、元魔王サタンではあるのう」
「おおぉっ! やっぱりそうですかい!」
我が正体を明かすと、先ほどよりも笑みを深めてくれた。
「我がサタンと名乗ることはできないからのう、今は我を苦しめた勇者、グレン・ユニバースの姿を借りて魔境の辺境の地で暮らしておるよ。お主のことは、バランと呼んだ方がいいかのう?」
「その方がありがたいですね」
バランはニヤリと笑ってそう告げてくれた。
「サタ――おっと、失礼。グレン様の噂はおいらも聞いていましたよ。それを真似して、おいらもこんな辺境の地で暮らしてるんですがね!」
「……我は魔境だぞ?」
「いやー、人間界も意外と面白いですよ?」
バランの見た目は金髪黒眼で長身痩躯、ぱっと見は大人の青年なのだろうが、小顔とタレ目のせいか幼く見えるのう。
「バラン、その見た目は自分で考えたのか?」
「そうですよ。最初は過去に見た勇者の中でも顔立ちが整っている人間に変化したんですがね、その姿で人間界をふらふらしていると、整った顔立ちよりも幼さが残った顔立ちの方が世渡りはしやすいと知ったもんで、こんな感じになりました」
「その割には、話し方が昔のままじゃのう」
「あー、これはグレン様と話しているからですよ。普段はさっきのお爺さんに話しかけた時みたいな話し方ですね」
そういえば、自身のことを僕と呼んでおったのう。ならば、ここでも人間として話をするべきか。
「我も家ではサラ――あー、ドレイウルゴスのことじゃが、彼奴も人間に変化して人間として話をしておるから、お主ともそのようにしようかのう」
「その方が助かりますね、ボロを出さない為にも」
というわけで、我らは人間としての口調で話をすることにした。
「それで、僕に何かご用ですか?」
「あぁ。実はな、ちょっとした成り行きで勇者を弟子にしたんだ」
「…………へっ?」
口を開けたまま固まってしまったバラン。まあ、そうなるじゃろうな。
「えっと、その、元魔王様が、勇者を弟子にしたんですか?」
「お前の言いたいことは分かる。最初はサラも怪訝な顔をしていたからな」
そこで、我の考えをバランにも説明した。
「――そうですか、現魔王への当て馬にねぇ」
「俺から見て、現魔王は魔族を完全に掌握できていない。それは圧倒的な実力を持っていないから舐められているんだろうな」
「まあ、それは僕にも心当たりがありますよ」
言葉の中にもバランが現魔王に従っていないことが見て取れる。
我に対しては様付けで呼んでくれたが、現魔王には呼び捨てだったからのう。
「でも、今の話じゃあその勇者は離れたんでしょう?」
「そうなんだが、その時に知り合ったギャレスという勇者にも懐かれてしまってな。今日、朝に別の勇者の卵を送り込んできたんだ」
「……そいつ、何を考えてるんでしょうね」
「俺にも分からん」
ギャレスの考えていることは正直さっぱりじゃ。
口では勇者を強くしてほしいと言ってはいるが、それならば自分で鍛えた方が早い気がする。見込みのある若手勇者がいれば手助けをしていると言っていたからのう。
「女の勇者が二人なんだが、何故だかサラは俺が師匠になることを許してくれなくてな、自分が二人を教えると言い張るんだ」
「……サラさんならそう言うでしょうね」
「そうなのか? 俺にはよく分からないんだが」
「グレンさ……ん、は昔からそうでしたから」
バランは何か知っているようではあったが、大事なことはそこではないから置いておこう。
「そこでだな、一人はサラを師匠に付けて問題ないんだが、もう一人が剣術の適正が低いにもかかわらず剣術を教えてほしいという問題児なんだ」
「それは難儀ですね」
「そして、体術に高い適正を見せている」
「……あー、そういうことですか」
我の言わんとしていることを分かってくれたようじゃな。
「バラン、俺のところに来て勇者の師匠になってくれないか?」
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