修行開始!

第6話:とりあえず、実力を見よう

 食事を終えた我らは一度家の外に出ることにした。

 弟子にするとは言ったが、二人の実力のほども分からんからのう、確かめなければいかん。

 とはいえこの辺りの魔族は人間にしてみると強力な奴らばかりじゃ……どうしたものか。


「では、アレスさんはグレン様に打ち込んでください」

「展開が早いな! それになんで俺に打ち込むんだよ!」

「その方が実力を測るには早いでしょう」

「……分かった分かった。アレスが使うのは剣だよな」


 腰に下げてるし、出会い頭に剣を向けられたし、まあ間違いないじゃろう。


「はい。これです」


 そう言って抜き身の剣を差し出してくる。

 ……おいおい、この剣は、マジかい。


「アレス、この剣はどこで手に入れたんだ?」

「これですか? 旅を初めてすぐの荒野で拾いました」

「拾ったあ!? これをかあ!」

「えっ、そうですけど、何かあるんですか?」


 ……この剣、一〇〇年以上見つかっていなかったという聖剣のハルジオンではないか?

 まさか、ハルジオンで我を斬るというのか!


「問題ありませんよね、グレン様」

「いや、さすがにこれは――」

「よろしくお願いします、グレン様!」

「いや、しかしだなあ――」

「アレスのこと、お願いします!」

「……分かったよ! やればいいんだろ!」


 聖剣というのは名前の通り宿である。

 魔族にとっては最大の弱点である聖なる力をわざわざ受けようというのだ。

 それもハルジオンは聖剣の中でもトップクラスの剣であるからして、さすがの我でも少し緊張してしまう。

 アレスにハルジオンを返すと、我も腰に下げた魔剣のバジリスクを引き抜く。

 魔剣というのは聖剣とは対となる宿である。

 多くの場合、魔剣は使う相手を選ぶとされている。魔剣特有の強力な力を使用者に与える反面、それぞれが持つ副作用があり使用者の大半が短命に終わる。

 まあ、我の場合はその実力を持って従わせることができるのじゃがな。


「さあ、来い」

「は、はい!」


 アレスが構えるのと同時にハルジオンの刀身が白い光を纏い始める。

 あー、何度見ても嫌な光じゃのう。

 小細工なしに正面から突っ込んで来るアレスは、これまた小細工なしに袈裟斬りを放つ。

 剣術は素人同然、おそらく誰かに師事したこともないのだろうと判断。

 バジリスクを片手で横薙ぎ刀身がぶつかり合うと、相反する力が膨大なエネルギーを生み出し刀身と刀身の間で爆発が起こる。


「うわあっ!」


 爆発に驚き、その威力に踏ん張りが利かず後ろに転がってしまったアレスを見て、フィジカルも低いと判断。

 ……今のところハルジオンを持っていること以外に良いところが見当たらないのだが、どうしたものか。


「今のって、何ですか?」

「聖剣と魔剣がぶつかったからな」

「聖剣? 魔剣?」

「アレスの剣は聖剣ハルジオン、聖剣の中でもトップクラスの聖剣だぞ。そしてこれが魔剣バジリスク。これもそれなりに強力な魔剣だな」


 我以外に扱える者がいなかったからの。魔王の座を譲るにあたり貰ってきたのじゃが、役に立ってよかったわい。


「……魔剣を、軽々と扱えるなんて!」

「いやそこか! 自分の剣に驚かんかい!」


 思わず素の話し方で突っ込んでしまったではないか! 拾った剣が聖剣だなんて、普通はあり得んからな!


「これ、聖剣なんですね。急に光ったりするから何だろうって思ってました!」

「……うん、もういいや」


 聖剣と分かってその反応、アレスはどこかのネジが外れているのではないか?

 ニーナの反応はどうじゃろうか。


「…………」


 うむ、普通なら驚き過ぎて声も出ないであろう。あれが普通の反応じゃろうな。


「……ア、アレス! 聖剣なんだって! これなら私達も他の勇者と同じだね!」


 他の勇者と同じとはなんじゃ! というか、ニーナも少しネジが外れておるではないか!

 普通は聖剣に驚愕し、魔剣に驚愕し、自らを高めようと決意し、真面目に鍛錬に取り組むとか、そういう流れではないのか!


「……グレン様は古う御座いますね」

「サラに言われたくないわ!」


 お主も我と生きた年数はそれ程変わらんじゃろうが!


「今の人間界では聖剣を量産することも可能だと聞いています」

「聖剣を、量産?」

「はい。既存の聖剣には遠く及びませんが、それでも下位の魔族には効果覿面だとか。ですから、聖剣というよりも魔剣に反応するのも致し方ないのです」

「しかしニーナは聖剣に反応……ん? 他の勇者と同じ?」


 まさか、他の勇者は全員が聖剣を持っているのか?


「持ってますよ。僕はお金がなくて買えませんでしたけど」

「……そ、そうか。世界は変わっているんだなぁ」


 多くの勇者に聖剣の量産。他にも我が分からないことがありそうで怖いのう。


「とりあえず、アレスの持っている聖剣は既存の物で効果も高い。後はお前次第だと思っていいだろうな」

「は、はい!」

「うふふ、やる気が出て何よりです。ではニーナさん、私達も参りましょうか」

「分かりました! それじゃあアレス、また後でね」

「うん。ニーナも頑張ってね」


 勇者と魔術師では教えることが異なるからの、我とサラで別々に教えるのは致し方なかろう。


「まずは基礎訓練からいこうか」

「お願いします、師匠!」


 師匠か。

 ……全く聞きなれない響きじゃのう。

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