第46話:双剣と長剣
家の前まで転移すると、シルバーが我を見て駆け寄ってくる。
だが、我が怪我をしていることに気がつくとすぐに警戒態勢に入った。
「グルルルルッ!」
「安心しろ、シルバー。脅威は去ったからな」
「グルル……ルル?」
「あぁ、大丈夫だ」
我はシルバーの目の前で浄化を発動、服にこびり付いていた砂や泥、血を洗い流して見た目を綺麗にする。
「おっと、右腕もそのままだったな」
我本来の右腕に変化魔法を発動して、グレンの右腕へと変化させる。
破れた衣服も元通りに変化させれば、カノンの家に来た時と同じ格好の出来上がりじゃ。
「ほら、元通りだろ?」
「グルルゥゥ、ルルア」
「なぜ置いてあったかって? 話はしただろう。カノンを守ってもらう為だ、俺の代わりになる」
「グルラ?」
「そう、代わりだ。俺の代わりになれるのはシルバーしかいないと思ったからお願いしたんだ。俺はお前のことを信頼しているんだぞ?」
「……グラッ!」
嬉しそうに頷くシルバーの頭を撫でながら、我は家の中に入っていった。
家に入ると、作業場のドアが閉まっているものの、その先から凄まじい気配が漂っているのが分かる。
カノンがボーヴィルスとエリシールを加工しているのだろう。
三日はかかると言っていたので、我はのんびりと過ごすことにした。
※※※※
カノンが作ってくれたご飯に舌鼓をうち、慣れない手つきでお茶を入れ、作り置きがなくなればこちらも慣れない手つきで食事を作る。
その間、シルバーは肉が食べられないことに不満顔だったが、それでも口に出すことはなかった。
我が家へ戻る前に、一度思う存分食事をさせるべきかもしれないのう。
そんな感じで日付が過ぎていく。そして――
――ガチャ。
作業場のドアが開き、中から満足気な表情を浮かべたカノンが出てきた。
「出来たのか?」
「出来上がりましたよ」
たった一言だが、その一言がとても充実しているように感じた。
カノンはドアから体をずらして中に入るよう促してくるので、我は立ち上がりシルバーと一緒に作業場に足を踏み入れる。
中央の机の上では、二振りの双剣と一振りの長剣が太陽の光を刀身に浴びて輝きを放っていた。
「……美しいな」
「ありがとうございます」
その言葉しか出てこなかった。
我はまず双剣を手に取った。
エリシールの翠が刀身を薄っすらと染めており、光を浴びるたびに優しい輝きが広がっていく。
持った感じも軽く、女性が持つには申し分ないであろう。
さらに、ボーヴィルスにエリシールを掛け合わせたことにより、魔力の通りがもの凄く良くなっておる。ただ握っただけで、我から微量に流れ出ている魔力に反応しているのには驚きじゃ。
そして、もう一振りの長剣を手に取った。
こちらは双剣とは異なり薄い碧色が刀身を染めている。
……これも、何かの素材が掛け合わされているようじゃのう。
「カノン、長剣の方は何も聞いていないぞ?」
「うふふ、バランが教えると聞いたので、軽い方が良いと思ったものですから」
双剣も軽かったが、長剣はそれ以上である。確かに持っているのだが……重さをほとんど感じないぞ。
この軽さは正直なところ、異常と言っていいかもしれん。
「こちらには精霊界の素材でウェンディルと言う素材を掛け合わせています。碧色が美しく、どの素材に掛け合わせても素晴らしい効果を発揮するのですよ」
「その効果というのは、物質の重量軽減といったところか?」
「その通りです。とても軽いでしょう?」
笑顔を浮かべながら簡単に答えるカノンだが、これはこれで相当凄い一振りになってしまったものだ。
「軽いの域を飛び抜けているだろう。この剣を振るうのも相当な技術がいるぞ」
「こちらもきっと大丈夫ですよ。だって、バランが教えているのですから」
「サラの時もそんなことを言っていたな」
「当時はお二人に相当痛めつけられましたからね。それだけの実力者なのですから問題ないでしょう」
もしかして、根に持っておるのか?
……いやいや、根に持っていたらこれ程に貴重な素材を使ってはくれんだろう。それに、カノンはそれくらいのことを根に持つ奴ではないからな。
「それではグレン。こちらの剣に命名をお願いします」
「むっ、我が付けるのか? カノンが付けた方が良いのではないか?」
「グレンから手渡すのですから、名前もグレンが付けた方が良いでしょう」
むむむっ、そうなるとどう名付けるべきか悩んでしまうのう。
翠の双剣に碧の長剣。
翠と、碧。そして、精霊界の素材。
「……うん、これだな」
「決まりましたか?」
「グルラ?」
カノンとシルバーが我を見て、今か今かと待っておる。
「双剣はフォレシール。長剣はスカイウェン」
美しい二振りの双剣と一振りの長剣。
森を抜けた先の小さな家で、青い空の下で出来上がった剣を、我はしばらく眺めてしまっていた。
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