突然の来訪者
第2話:誰も来ないはずが……
グレンとサラの姿になってから数日が経った。
生活をしている家が魔族サイズで作られているので多少の不便はあったが、概ね楽しく過ごせている。
サラもようやく我のことをグレンと呼ぶのに慣れてきたようで何よりじゃ。
そうして過ごしていたある日、まさかの珍客が現れた。
「……何者じゃ?」
「……人間ですね。何故このような辺境の地に?」
結界に侵入者を探知した我らは何者なのかを確かめるため家を出ると、侵入者を感知した方向へと目を向ける。
魔境にしか生息しない蠢く植物が行く手を遮って入るものの、この程度の障害物は我にとって障害物にあらず。
左足に軽く力を込めて地面を蹴る――そうすれば障害物をなぎ倒して一瞬で侵入者の目の前に現れることができるんじゃよ。
「どわああああぁぁっ! ぼ、ぼぼぼぼ、僕達は! ゆゆゆゆ、勇者パーティですっ!」
「「…………えっ?」」
我とサラはぽかんとしながらそんな呟きを漏らした。
「……あ、あなた方は、にににに、人間ですか?」
「で、でもアレス。ここって、魔境だよね? 魔境に人間がいるはずないよね?」
……あ、そうか。我は今グレンの姿をしているし、ドレイウルゴスもサラの姿をしているのであった。
うーむ、人間と言ってもいいのだが、今の時代の勇者がどれ程のものか確かめてみたい気もする。
チラリとサラに視線を向けると、目だけで『ご自由に』という合図が送られてきた。
「……我は、魔族である」
「や、やっぱりいいいいぃぃっ!」
「魔族! よ、よし、僕が、退治してやりゅう!」
……やりゅう、って。
えっ、本当に今の勇者ってこのような小童なんだろうか?
「……我の本当の姿に恐れ戦くが良い!」
「に、逃げようよ、アレス!」
「ダメだよ、ニーナ! 僕は勇者なんだ、魔族が怖くて逃げるなんて、でででで、出来ないよ!」
……これ、本当の姿を見せたら逃げるんじゃなかろうか。
まあ、とりあえず見せるみたいなことを言ってしまったし見せてやるかのう。
変化魔法を解除、魔法陣が現れると漆黒が我の姿を覆い尽くし、魔法陣が晴れると我本来の姿――元魔王が現れた。
「「……」」
「どうじゃ? 恐ろしいじゃろう」
…………あれ? な、何故反応がないんじゃ?
チラリとサラを見るが、流石のサラも首を左右に振る。
悩んだ挙句、我は鋭い爪が刺さらないように指先で軽く突っついてみた。
――ばたんっ。
「……えっ、何もしていないんじゃが?」
「……流石サタン様です。御姿を見せるだけで現勇者を倒してしまうとは」
「いやいや、これは彼奴らが明らかにおかしいだけじゃろう!」
「しかし、いかが致しましょうか。ここに置いておくのも些か問題がありそうな気もします」
サラの指摘はもっともじゃ。
辺境とはいえここは魔境。結界内に我ら以外の魔族はおらんが入ってこないとも限らん。それに、ここをうろちょろされても鬱陶しいだけである。
しばらく悩んだ結果――とりあえず連れて帰ることにした。
「それでいいのですか?」
「此奴らが本当に勇者パーティなのか、気になるからのう」
我はグレンの姿に変化してアレスと呼ばれていた勇者と思われる小僧を、サラがニーナと呼ばれた小娘を抱き上げる。
来た時と同じルートで家に戻るのだが、魔境の植物は再生能力が高いのじゃ。再び障害物をなぎ倒しながら戻っていった。
※※※※
家に連れて来たものの、これからどうするかのう。
勇者パーティということじゃが魔族を見ただけで怯え、我の姿を見て気絶するような奴が本当に勇者なのだろうか。
もし本当に勇者であれば、人間の世界は滅ぶかも知れんのう。
「サタ……グレン様、一つ提案がございます」
「一度サタンと言ったから元に戻ってしまったか?」
「……」
「……して、提案とは何じゃ?」
サラの悪い癖じゃ。恥ずかしくなると黙ってしまうんじゃ。
「はい、グレン様。彼らは私達と出会ってからすぐに気絶しています。そしてここは魔境」
「ふむ、続けい」
「はい。彼らが見たものが夢だったのだと思わせるのです」
「夢かぁ。それでいけると思うか?」
「はい、グレン様。私達が魔族を追い払った、そしてここは私達が暮らしている家なのだと思い込ませるのです」
「我はこの姿はもちろん、魔族の姿も見られているぞ?」
「それこそ、気が動転していて記憶が前後しているのだと思わせるのです。最初に出会ったのが魔族姿のサタン様。後に現れたのがグレン様とサラ様の姿をした私達で、魔族を追い払い二人を助けたのだと」
ふむ、話を聞き出すためであればそれも良い手かもしれんのう。
殺すだけならすぐに出来るが、気になる点も多くある。もしダメであればすぐに殺すことも出来るのだ、やってみるか。
「うむ。サラよ、やってみるか」
「かしこまりました」
「そうとなれば言葉使いも変えなければならんのう!」
「言葉使い、ですか?」
「その通りじゃ! グレンとサラは人間の歳でもまだまだ若かった。ならば、我らも若い人間の言葉で話すべきじゃろう!」
「確かに、そうでございますね。それでしたら立ち振舞いもそれ相応の動きをする必要があると具申致します」
「おぉっ! その通りじゃ!」
そこからはサラと一緒に若い人間の話し方や動き方について相談しながら時間を過ごしていく。
そして数時間後――ついに勇者パーティが目覚めることになったのじゃ。
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