第3話:えっ、マジで?
「――……ぅぅん」
先に目覚めたのはアレスと呼ばれた勇者の方じゃった。
「目が覚めたか?」
「……ま、魔族!」
「何を言っている。俺が魔族に見えるのか?」
……こ、この話し方、難しいのう。
長年生きていると話し方も決まってしまうから意識せねば普段の話し方が出てしまいそうじゃ。
「えっ、でも、えっ?」
「お前達を襲っていた魔族なら追い払った」
「……あなたは、いったい?」
「――……あ、あれ、ここは?」
おっ、小娘の方も目を覚ましたようじゃな。
「……ま、まままま、魔族!」
「だから、何故そう見える!」
いや、まあ、間違ってはいないのだがのう。
「あら、目を覚ましたのね」
「そのようだな」
そこへ何食わぬ顔で奥の部屋からサラが現れた。手には水を入れたコップを乗せたお盆――うむ、完璧である。
「とりあえず水をお飲みなさい。落ち着きますよ」
「……あ、ありがとう、ございます」
「……アレス、でも」
「この人達が魔族を追い払ってくれたみたいなんだ」
「えっ? そ、そうなんですか?」
「その通りです。こちらのグレン様が追い払ってくれましたよ」
……サラよ、普段の呼び方に戻っておるのだが?
「グレン様……その、ありがとうございました!」
「……本当に、本当にありがとうございました!」
「いや、まあ、構わんよ」
泣いてまで喜ぶことなのか? このような辺境の地までやってきたのだからそれなりに実力はあると思うのだが。
「それで、お前達の名前は?」
「あっ、はい! 僕の名前はアレス・ライアンです。一応、勇者みたい、です」
「私はニーナ・ラズベリーです。魔術師です」
「待て待て。ニーナは魔術師だな、うん。……アレスの一応勇者ってのはどういうことなんだ?」
勇者って一応で慣れるものではないであろうに。今の人間の世界では、一応勇者も通用するものなのか?
「知らないんですか? 勇者と呼ばれる人達は数十人いるんですよ」
「……はあ?」
「昔はその時代に一番強い者、もしくは勇者のお告げがあった場合にのみ勇者を決めていたと本に書いてありました」
「う、うむ」
「ですが、今は魔王に倒されてしまうたびに育てる行為が時間の無駄だとされていて、素質のある者を勇者として任命し、一気に育てる方針に変わったんですよ」
そ、そんなことがまかり通って良いのか? それはつまり、魔王が何人もいるのと同じではないのか?
……そういえば、魔王を引退する三〇年くらい前から頻繁に勇者パーティと名乗る奴らが攻めてきたような。
あまりに弱かったので嘘だと思っていたが、それが原因かもしれないのう。
「その、僕はここ最近で素質があると言われた新米勇者――その卵みたいなものなんです」
「……新米勇者の、その卵かい」
「……グレン様、言葉使い」
おっと、いかんいかん。
あまりにもおかしな話だったせいでつい素が出てしまったわい。
「それで、そんな新米勇者の卵が何で魔境のこんな奥深くにいるんだ?」
「それが……」
アレスはチラリとニーナを見る。
俯き加減のニーナは、ビクビクしながらも続きを説明してくれた。
「……その、私達、急にこの近くまで飛ばされてしまったんです」
「急に飛ばされただと?」
何かの魔法、もしくは転移魔術具の類かのう。
この辺りはサラが詳しいので、視線でサラに確認をお願いする。
「ニーナさん、それは魔法ですか? 魔術具ですか?」
「多分、魔術具だと思います」
「はっきりとは分からないのですね?」
「……すいません」
「責めているわけではないのですよ。ただ、はっきりと分からないと言うことは、何かしらに巻き込まれたのかしら?」
「そ、そうなんですうっ!」
涙目でサラに訴えるニーナ。
ふむ、やはり女性には女性の方が良いみたいじゃのう。
「魔境の入口近くにあった洞窟に入ったんです。そしたら奥に宝箱がありました」
……あれ? 魔境入口近くの洞窟に、宝箱?
「その中には紅く輝く宝石のような物が入っていたんです。私達嬉しくて、その宝石に触れた途端に……き、気づいたら魔境にいたんです!」
「……そ、その宝石はまだ持っているか?」
「はい。元の場所に戻るために使えると思ったので」
そう言ってニーナが取り出した宝石は紅い色ではなく、青い色に変化しているようじゃな。
……うん、やはりのう、確信したわい。
――あれ、我が設置した転移魔術具じゃ。
家から魔境の外、つまり人間界に行くには相当の距離がある。我であれば数十分で行けるのだが、進路上の被害が半端ない。
そこで思いついたのが、転移魔術具を魔境の入口に設置しておけば簡単に外へ行けるというものじゃ。
……それなのに、まさか勇者パーティが転移してくるとは。
「……ちょっと失礼するわね――グレン様」
「お、おう」
顔を見合わせて首を傾げる二人は置いておき、我とサラは壁際に移動する。
「……隠蔽魔術を使われなかったのですか?」
「……いや、使ったと思ったんじゃが。耄碌したかのう」
「……確かめてきてもよろしいですか?」
「……それは良いが、どうしたんじゃ?」
「……少し気になることがありますので」
そう言って我と二人に断りを入れて一度外に出るサラ。
「あ、あのー」
「ん、どうした」
「先程の方、お一人で大丈夫なんですか?」
「サラのことか? 大丈夫だが」
「えっと、ここって、魔境ですよね? それも奥深くの」
「そうだが?」
「……」
「……」
「いえ、何でもありません!」
な、何なのじゃ、よく分からんのう。
首を傾げていると、先程出て行ったばかりのサラが数分で戻ってきた。
「……グレン様」
「お、おう」
今度は何なのじゃ? 心なしかサラの表情が固く感じられるのじゃが。
「……隠蔽魔術は使用されておりました」
「……そうかそうか、我もまだ耄碌していないのじゃな」
「……問題はそこではありませんよ」
「……酷いのう」
「……問題は、グレン様が施した隠蔽魔術を二人が突破したことでございます」
「……あー、そうじゃのう」
……魔族最強の我が施した隠蔽魔術を突破した事実に、アレスが勇者に選ばれた理由があるのかもしれないのう。
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