第39話:穏やかな時間
戻ってきたカノンの家からは、美味しそうな香りがしていた。
シルバーだけでなく、我自身にも
「あら、お帰りなさい。シルバーの食事は大丈夫でしたか?」
「ガルウッ!」
「あぁ。問題なく終わったよ」
「それはよかった。こちらの調理も終わりましたから、グレンも食事にいたしましょう」
すでに太陽は半分以上を姿を隠しており、夜が近づいている。
普段よりは少し早いが、ここは家主に合わせるべきだろうと我は頷き椅子に腰掛けた。
その横にシルバーが寝そべり大あくびをしている。
「何だ、腹いっぱいになって眠くなったのか?」
「グルルゥ」
「うふふ、本当に可愛い子ですね。眠くなったなら、あちらの部屋を使っていいですからね」
「ガルゥ」
眠そうに返事を返したが、しばらくは我の横にいるらしい。
カノンと目を合わせてお互いに苦笑を浮かべ、そのまま食事をすることにした。
出された料理は全て野菜や木の実、いわゆる自然の食材で作られている。これはカノンが菜食主義だからじゃ。
肉を食べない、というわけではないが、好きではないということもあり基本的には自然食材のみで生活している。
「グレンには物足りないかもしれませんけど……」
「いや、カノンが作る料理美味いからな。これでも十分に満足しているよ」
そう、カノンは料理が上手なのじゃ。
サラも上手な方だと思うが、カノンには敵わない。素材を活かす調理法に精通しており、さらに調味料の使い方が良いのかこれらの材料であっさりした料理はもちろんのこと、香ばしく食べ応えのある料理まで作り上げるのだから驚きだ。
ボーヴィルスで剣を作ってもらうのが一番の目的じゃが、カノンに頼もうと思った瞬間に料理も食べたいと思ったのは内緒である。
時間を掛けて料理を味わい、ちょっとした談笑を交えながらの食事はまた格別だった。
カノンはこの家で長らく一人で過ごしているのだが、不便は感じていないようじゃ。
家の裏には菜園が広がり、木の実なども近くの森の中で採取できる。目の前の料理も菜園と森の木の実が用いられている。
じゃが――
「やはり、誰かと話をするというのは楽しいものですね」
生活に不便はないものの、常に一人という状況は寂しいようじゃ。
一度我も今の家に誘ったことがあるのだが、迷惑は掛けられないと断られておる。
……迷惑などとは思っていないのだがのう。
「森の中はいかがでしたか?」
「こちらと面していない逆側には多くの獣がいたよ。そのおかげでシルバーも嬉々として狩りを楽しんでいたな」
そう言ってチラリとシルバーに目を向けるが、すでに頭がフラフラしていて話を聞いていないようじゃ。
「俺からも一つ聞きたいんだが、最近の森は特に問題なさそうか?」
「最近の森、ですか? はい、特に問題はありませんよ」
「……そうか」
我の質問にカノンは首を傾げている。
やはり、あれは我の勘違いだったのかもしれないのう。
「何かありましたか?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
「そうですか? それじゃあ、食後のお茶にしましょうか」
「頼む」
立ち上がったカノンがお皿を片付けながらお湯を沸かし、手際よくお茶を入れてくれた。
訪れた時に入れてくれたお茶は動かした体を落ち着けてくれる冷えたものだったが、今回のお茶は食後ということもあり暖かく、少し苦味がある中に旨味も含まれる美味なものだ。
エルフの森で暮らしていた頃の知識から、様々なお茶にも精通していた。
「うん、美味い」
「うふふ、ありがとうございます」
「突然の来訪で申し訳なかったな」
「いえいえ、誰かが訪ねてくることなんてありませんからね。こうしてお茶を飲み交わすだけでも嬉しいものです」
「そう言ってもらえると助かる」
「そうそう、ボーヴィルスで作る剣ですけれど、双剣の方は魔法剣を扱う方が使用するのですよね?」
「そうだが、どうかしたか?」
思案顔になっているカノンは、我に一つの提案をしてくれた。
「ボーヴィルスは確かに魔力をよく通します。おそらくは鉱石の中でもトップクラスでしょう。ですが、ボーヴィルスにちょっとした素材を掛け合わせると、より魔力を通すことができるのです」
「そんな素材、俺は待っていないぞ。ある場所を教えてくれれば取りに行けるが……その言い方だと、持っているんだな?」
カノンが思案する時は、大抵の場合に解決策も準備している。ただ、決定権は我にあるのでこのような言い回しになったのだろう。
「持っています。それと、グレンでも素材がある場所には行けないでしょう」
「ほほぅ?」
それは、面白い発言だのう。
転移もできて、元魔王で今なお魔族最強の我が行けない場所があるというのか?
「それは、何処なんだ?」
場所によっては、挑戦してみたいと思い胸を弾ませて聞いてみた。
「その場所は――精霊界なのですよ」
精霊界……ぐぬぬ、確かに我では行けない場所ではないか!
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