第11話:勇者を鍛える、模擬戦

 とりあえずアレスを落ち着かせるのに数十分掛かってしまったぞ。

 しかし先程のハルジオンの暴走を見れば致し方ないじゃろう。……あれはさすがの我もビビったからのう。


「もう、大丈夫か?」

「は、はい。その、すいませんでした」

「最初だからな、仕方ないさ」


 今は優しい言葉の一つや二つ安いものじゃ。今までの我からすると考えられんがのう。

 アレスが頷いたのを確認した我は、とりあえず一通りのことは教えられたので、一度模擬戦でもしてみようかと考えた。


「アレス、俺と模擬戦をしてみないか?」

「……えっ? 師匠と模擬戦ですか?」

「そうだ」

「で、でも、僕じゃあ相手にならないかと……」


 アレスの心配はもっともじゃ。我がフル装備で挑めば一秒も保つまい。


「安心しろ。武器は普通の剣を使うし、俺から反撃はしない。打ち合いでアレスの成長を確認したいんだよ」


 ……バジリスクを使えばまーたハルジオンが暴走するかもしれんからのう。


「……わ、分かりました! 精一杯頑張ります!」

「よし。模擬戦はこの結界内で行う」


 我は結界魔術具に先程よりも多くの魔力を流し込むことで強度を高める。

 破気はきにハルジオン、これらを使われては今の結界では壊れる可能性もあるからのう。

 強化出来る最大限まで魔力を注ぎ込むと、我は剣を持ち結界の中央に移動する。

 アレスも真剣な表情でハルジオンを構えた。

 ……うむ、水の構えは出来ておるな。

 我は威嚇のつもりで軽く殺気を放つ。


「――ひいっ!」

「引くな! 構えろ、耐えろ!」

「は、はいいいいいぃぃっ!」


 涙目ではあるが、水の構えを崩さずにこちらを見据える。

 我が右に動けば、剣先が我から外れないようについてくる。


「早く仕掛けてこい。でないとこちらから行くぞ?」

「は、反撃しないって言ったじゃないですか!」

「ならばアレスから仕掛けてこい!」

「ううぅぅぅっ! とりやああああぁぁっ!」


 ハルジオンを振り上げて火の構えに変化、最小限の動きで上段斬りが飛んでくる。

 右手一本で防ぐと、左前蹴りをアレスの腹部に叩き込み距離を作る。


「ぐへえっ!」

「攻撃一辺倒になるな! 相手を見て回避することも常に考えろ!」

「は、はい!」


 蹴られたことで防御重視になったのか、土の構えに変化した。だが、我は反撃しないと言っているのに土の構えはいただけないのう。


「それは俺に攻撃してくれと言っているのか?」

「違います! それより、前蹴りで反撃したじゃないですか!」

「剣ではしてないが?」

「そういう問題じゃありませんよ!」

「とにかく、防御に徹するなら俺から仕掛けるが、いいんだな?」

「ダ、ダダダダ、ダメです!」


 すかさず水の構えに戻ったかと思えば、前進して木の構えから袈裟斬りが放たれた。

 何だ、やれば出来るじゃないか。

 軽く横薙ぎ弾き返すが、続け様に上段斬りが放たれたので後退して紙一重で回避する。

 間合いを詰めるようにアレスが一歩前進、自然と金の構えとなり斬り上げが迫る。

 この短期間で攻防の流れから構えを変化させるに至ったか、素晴らしいぞ。

 感心しながら渾身の振り下ろしでハルジオンを迎撃、悲鳴のようなものが聞こえたが……まあ気のせいじゃろう。


「破気とハルジオンの光刃は使わないのか?」

「つ、使いますとも!」

「それでいい、思いっきり来い!」


 おっ、ようやくやる気が出たようじゃな。

 アレスは剣先を我に向けて気を練り上げる。

 今のアレスでは破気を制御して狙ったところに放つのは難しい。ならば射線をイメージしやすいように初めは剣先を向けるように教えたのじゃ。

 いずれ剣先を向けずとも破気を放てるようになればかなりの確率で現魔王ともやり合えるじゃろう。

 イメージが固まったアレスは練り上げた気を一気に解き放った。


「ふんっ!」


 そしてアレスが放った破気じゃが……実は我も破気を使えるんだよね。

 アレスの破気に我の破気をぶつけて相殺、バジリスクとハルジオンがぶつかった時の爆発よりも膨大な熱量を持った衝撃波が広がり結界を大きく揺らす。

 口を開けたまま固まっていたアレスだが、我がニヤリと笑えばすぐに気持ちを切り替えて次の攻撃に移る。


「こ、これでどうだ!」


 ハルジオンの刀身から光が溢れ出すと光刃が五つ顕現した。

 先程はハルジオンが暴走した結果、大量の光刃が襲い掛かってきたが、これがアレスが制御出来る限界なのじゃろう。

 それでも一度習っただけで五つもの光刃を顕現出来れば大したものじゃ。全ての光刃が正面から二つ、左右と上から一つずつ、ほぼ同時に迫ってきた。


「――狙いはよし、だがまだ甘い」


 五つの光刃はに迫ってきたわけで、ではない。

 僅かなズレに合わせて体勢を半身にずらし、一歩下がり、右に動き、剣を二度振るう。

 三つの光刃を紙一重で回避し、二つの光刃を剣で弾き返す。

 流石にただの剣で光刃を弾き返すことは不可能なので、我の魔力で刀身を覆っていたのは内緒である。

 しかし、それでも腕に痺れを残す程の威力には感嘆じゃ。

 軽く右腕を振って痺れを解消、アレスに視線を向ける――んっ?


「どうした、来ないのか?」

「……し、師匠」

「何だ?」

「…………げ、限界、です〜」


 ――バタン。


 ……や、やり過ぎたかのう。

 今日一日で詰め込み過ぎたせいか、アレスは模擬戦の最中に疲労のせいで気絶してしまった。

 アレスを抱き上げた我は結界を解除して家に向かう。

 今日の訓練はここまで、後はゆっくり休ませるとしよう。

 ……そういえば、サラとニーナはどうなったじゃろうか。後で聞いてみようかのう。

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