おのれ、役立たずどもめ~っ!


あねさん、なにかお困りですかい?」

桧室ひむろが言ってきた。


 姐さんはやめて欲しいが、助かった、と思いながら、ほとりは、今、まさに引き出しを開けんとしている沼田を後ろから指差す。


 すると、桧室は眉をひそめ、えー? という顔をしたあとで、


「その人、警察の人なんですよね?

 私、警察、苦手なんですよねー」

と言い出した。


 うわ、また役に立たないなー、このヤクザ。


 っていうか、坊主には怯えないのに、警察には怯えるのか、と思っている間も、


「むっ、鍵がかかっているのか?

 開かないぞっ」

と言いながら、沼田は引き出しを引っ張って、箪笥をギシギシ言わせている。


 少し開いているのだから、鍵なわけはない。


 古い箪笥が湿気っているので、引き出しの開け閉めが難しいだけだが、呪いの蔵の雰囲気に呑まれているのか、沼田も動転しているようだった。


「うーむ。

 助けてやりたいのはやまやまだが。


 警察を敵に回すのは、私もあまり好まぬな」

と言う声がすぐ側でした。


 見ると、神様が立っている。


「警察とは、検非違使けびいしみたいなものだろう?」

と言う神様に、


 だから、貴方は、過去、なにをやったんですか、と思いながら、


 やっぱり、この寺に居る連中、役に立たない、とほとりは再確認する。


 チラと周囲を見回した。


 重ねられた黒いつづらに立てかけるように、ちょうど撲殺できそうなくわがある。


 刃は錆びているが、反対側で殴ると良さそうだ、と思わず考えてしまったとき、ほとりの視線を追った桧室が、

「姐さん、それはヤバイですっ」

と言ってきた。


 だが、そのとき、むんっ、と言いながら、沼田が引っ張った引き出しが、がくん、と大きく動いた。


 ヤバイッ! とほとりは思わず、鍬に手を伸ばそうとする。


 だが、気をつけねば。


 鍬を取る弾みでつづらを倒したら、この中にも、山盛りのミワちゃんが居るはずだ。


 繭めっ、ちゃんと引き出し閉めとかないからっ。


 それとも、開けたの、ミワちゃんかっ!?


 奴は母屋の襖も、自分が通り抜けるために、いつも少し開けてるからな、と思う。


 それでなくとも、隙間風が吹く寒い家なのにっ、と思いながら、鍬の柄に触れたとき、ひゃーっ、と外で悲鳴が上がった。


「なんだっ!?」

と叫んだ沼田は、刑事のさがなのか。


 悲鳴に反射的に身体が動いたようで、蔵を飛び出していった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る