お前は怖がれ

 


 そういえば、さっきの騒ぎはなんだったろうと思っていたら、環が伊佐木の肩にゲジゲジをそっとのせたからのようだった。


「いや、繭が青ざめてたから、蔵にいろいろとまずいものがまだあるんだろうなと思ってな」

と環は言う。


 ほとりが、

「うちの霊はどいつもこいつも後ろ暗いから、警察に怯えて、こんなときはなにもしてくれないんで、助かったわ」

と言うと、


「俺は別に警察は怖くないから大丈夫だ」

と環が言った。


 いや、お前は怖がれ、横領犯……と思いながら、どっと疲れているらしい伊佐木たちが帰るのを見送る。


 結局、なにしに来たんだ、この人たち、と思いながら。


 伊佐木は環に言われ、ノブナガ様は、スマホで操作できる人形だと信じて帰っていったようだ。


「誰もスマホ、いじってないのにね」

と山道を走り去る覆面パトカーを見下ろしながら、ほとりが言うと、


「人間はおのれに都合のいいことだけ信じるもんだ」

と環は言う。


「そういえば、僕も帰らなきゃ。

 店、人に任せたままだったよ」

と繭が言ってきた。


「任せてきたって、また、床屋のおじさん?」

とほとりが訊くと、


「いや、常連のおばあちゃんたち」

と繭は笑う。


「任せたっていうか。

 ずっとしゃべってるから、よろしくーって言ったら、はいはいーって」


「それ、いつの話よ……」


 朝の話だろう、と思いながら言ったが、

「まあ、泥棒入られても、なにもないけどねー」

と繭は言う。


 まあ、入った泥棒が家捜しして、ダンボールの中の大量のミワちゃんに気づいて、ひーっ、と逃げ出すのがオチだ。


「ミワ、繭の店、泥棒入ってないか、見てきてよ」

とほとりが言うと、


「知らないわよ。

 私は警備会社じゃないのよ」

とノブナガ様を肩にのせたまま、文句を言ってくる。


「私が見てきましょうか?」

とまだ庭に出ていた桧室ひむろが言ってくれる。


「泥棒が居ましたら、脅してきますよ」


 いや、どうやって。


 それ、霊感のある泥棒にしか、見えないし、と思ってると、

「なに、この人の人形に入って、動かしたら、見えるでしょう」

とミワを見ながら、笑顔で言う桧室に、やめてーっ、とミワが絶叫する。


「なんか留守中におっさんに部屋に入られて、制服着てみられる感じだから、やめてーっ」


「例えが悪いですよっ」

と桧室とミワが揉め始める。


「えーと。

 なんだかわかんないけど、僕、帰るね~」

と二人の会話は聞こえていない繭も怪しい気配を察して、そう話をまとめようとした。


「ああ、でも、クサイ飯食べることにならなくてよかった。

 環が警察脅してくれたおかげで、綺麗な布団で寝られるよ」


「脅してない……」

と環が言い、ほとりは、


「いや、たぶん、警察の布団の方が綺麗だと思うけど……」

と繭の部屋の惨状を思い出しながら言った。


 部屋もたぶん、留置場の方がマシだな。


 片付けなくていいくらい、物ないだろうからな、留置場、と思いながら、じゃあねーと朝から置きっ放しだった車に乗って帰っていく繭を見送った。





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