送信っ、と――
「ほとり、返信だぞ」
環が戸締まりをしてくれているので、ほとりが熱い鍋をおっかなびっくり食卓に運んでいると、神様がそんなことを言ってきた。
「あっ、なに勝手に見てるんですかっ。
っていうか、電子機器が操作できるんですかっ?」
と振り返りながら、ほとりは言う。
神様は窓際の造り付けの木の棚の上にあるほとりのスマホを上から眺めているだけで、手も触れていない。
だが、画面が明るくなっているので、動いていることは確かなようだ。
「読んでください」
と言うと、
「和亮からだな。
『なにがあったんだ?』
だそうだぞ」
と腕を組んだまま、画面を見下ろし、言ってくる。
「自動読み上げ装置みたいですね」
と神様に対して、無礼なことを言ったあとで、更に無礼なことを言う。
「神様、もしかして、返信できます?」
取り皿を取りに行きながら、ほとりがそう言うと、
「よかろう」
とちょっと楽しそうに神様は言ってきた。
いじってみたいようだ……。
その前に送った文章なども、ふむふむと読んでいる。
だが、特に見られて恥ずかしいようなものもないので、別にいい。
「『あの家から死体が見つかって。
繭の名前が書かれた宅配便があったせいで、繭が疑われたの。
うちにも警察が来て、なにか怪しいものがないか、樽とか蔵とか見てったわ』」
神様が今、読み上げた通りの言葉が打ち込まれているらしい。
「送信っ、と」
満足げに言う神様に、
「すごいじゃないですかっ」
と箸を並べながらほとりが言うと、
「お、すぐ返信が来たぞ」
と言って、神様は、うきうきスマホの画面を覗き込む。
ノブナガ様もいつの間にか寄ってきていて、画面を剣先でつんつんしていたが、こちらはスマホに特に影響はないようだった。
「『お前、本当にほとりか?』
ん? 何故だ?
完璧な文章だったろうに」
と和亮が疑ってきたことに対して、神様は不審げだった。
確かに。
文章は何処もおかしくなかった。
何故、別人だとわかったんだ? とほとりも思っていると、神様がまた、勝手に返信を打ち始めた。
「『どうして?
私は、ほとりよ、はーと』
「……神様、はーと、いりません」
と言ったときにはもう送っていたしらい。
またすぐに返信が来る。
「『ほとりにしては文章が長い』」
なるほどな、と神様は顎に手をやり、頷いていた。
「『お前は誰だ?』
『神だ』」
和亮のメールを読み上げながら、そのまま返事をしている。
「送信しないでっ」
と叫んだときには送っていた。
すぐにスマホが鳴り出す。
「ああっ、ほら、おかしなこと言うから、かかってきちゃったじゃないですかーっ」
自分で打てばよかったーっ、とほんのちょっとの手間を惜しんだことをほとりは悔いた。
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