死んでるのかと思った……

 ふう。


 お鍋、美味しかった~。


 あったまるし、簡単だし。


 冬場のお鍋は最高だな。


 和亮からの電話が取調室での尋問みたいで、ちょっと嫌だったけど……。


 まあ、あれでも、その道のプロだから、聞いてもらっておいたら、そのうち、なにかいいお告げをくれるかも、と思いながら、ほとりがガラリと縁側に近い部屋の襖を開けると、うつ伏せに人が倒れていた。


 えっ?


 救急車っ! と反射的に思ってしまったが。


 よく考えたら、こんなところに家人でもない女子高生が倒れているわけもない。


「ミワ、どうしたの?


 死んでるのかと思ったじゃない」


と言うと、魂が抜けたかのように、


 いや、もともと魂だけなのだが――


 動かなかったミワはゆっくりと畳に手をついて起き上がり、長い髪をかき上げた。


「いや、なんかさ。


 ふうっとなにか抜けたみたいになってさ」


と片膝立てて座り、青白い月明かりが差し込む障子を見ている。


 穴が空いたところが桜の形の補修シールで補修してあるのがちょっと可愛い障子だ。


「人に見られて、疲れたっていうか」


 伊佐木のことだろう。


 いや、私たちもいつも見てるんだけどね、と思ったが、その辺は数には入っていないようだった。


 もともとちょっと、あやかし寄りの(?)人間だからだろうか。


 伊佐木は普段、霊なども見えない、というか、見えていても気づいていない人なので。


 久しぶりに自分を普通の人間だと思っている人と話したという意味だろうな、とほとりが思っていると、


「……疲れた。


 違うか」


とまだ障子の方を見ながら、ミワは呟く。


「なんかこう……


 上手い言葉で言えないけど。


 人に見られて安心したっていうか。


 満足したっていうか」


 うん、よくわかんないや、と呟き、一度もこちらを振り返らないまま、ミワは消えた。


 なんだろう。


 落ち着かないな、とほとりは思う。


 その落ち着かない気持ちを、此処で環に話したら、ミワが聞いてそうだな、と思って言えないまま、外のトイレに行ったとき、久しぶりに美和を見た。


 納屋の前に立つ彼女は、もう人を殺して見せたりはせずに、ただやさしく微笑んでこちらを見ていた。


 視線を合わせると、深くお辞儀をしてくる。


 温まった部屋に戻り、布団に潜り込もうとしたが。


 まだ、寝てもいないのに、子どもの頃、怖い夢を見て眠れなかったときのような気分になり、なんとなく、環の布団にもぐり込む。


 こちらに背を向け、本を読んでいた環だが、自分が入り込んできたのに気づいて、


「どうした、ほとり」


と昼間は見ないような顔で、やさしく微笑み、キスしてきた。


 環はそのまま本を置く。


 いや……そういう意味ではなかったんだが……、と思いながらも、ほとりは環の重みを受け止めた。


 夢の中――。


 ほとりは繭の部屋に居た。


 繭はパソコンの前に座り、少し怠惰そうに画面を見ている。


 そんな繭を後ろからミワがそっと抱きしめていた。


 人形の映る画面を見ながら、繭がカートにその人形を入れようとクリックする手をミワが止めようとする。


 だが、霊体であるミワの手ではそれは叶わず、繭はまた一体、ミワを買ってしまった。


 そんな繭をミワはただ、後ろから眺めている。






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