あいつら?


 ほとりは縁側の辺りから、脚立の上の山本の背中を見つめていた。


 まだなにやらブツブツ言っているようだ。


 死んだら、若返ったりするというが。

 山本も微妙に若くなっているようだった。


 五十代くらいだろうかな。


 軽く脚立に上がっているからな、と思う。


 山本は、此処に引っ越してきてからは、なんのトラブルもない穏やかな住人だったらしいが。


 五十代くらいの頃には、こういう性格だったのかもな、とちょっと思う。


 話しかけてみようかなー。


 物騒かなー。


 でもまあ、相手は霊だしな、と思っていると、沼田と話していた伊佐木が渋い顔で戻ってきた。


「なんであの人は自分でやんないんでしょうねー、なんでも~」

となにやら文句を言っている。


 どうも、沼田に、山本の話を訊いてこいと言われたようだ。


 伊佐木は脚立がある方を振り返りながら、

「綺麗好きの山本さんはまだ居ますか?」

とほとりに訊いてくる。


 綺麗好き? と思うほとりに、伊佐木は医者と鑑識からの話をしてくれた。


「山本さんは、二度も頭を打ってたんですか。


 座卓に頭を打ち付けたんだとしたら、そこを拭いたのは、その場に居た第三者ですよね、きっと」


 なにかの証拠隠滅のために。


 じゃあ、やはり、事件か、とほとりは山本の方を振り返る。


 しかし、本人は自分が殺されたときの記憶はないのか。


 山本は、おのれが死んでいた座敷には興味は示さず、枝を切っている。


 うーん、と思ったあとで、ほとりは山本に近づいていった。


「こんにちは。

 ご精が出ますね」

と生きている人間に言うように話しかけてみた。


 すると、山本はほとりを見下ろし、

「いやあ、ずっと気になってたんですよねえ。

 此処の木が伸びすぎてるのが。


 でも、枝を切るのも最近は難しくて……」

と愛想よく言いかけて、ふと、気づいたように山本は呟く。


「そう。

 最近難しかったんですよ。


 ……あれ?

 なんでだったかな」

と脚立の上の山本は考え始めた。


「ああそう。

 歳をとったから。


 ……そう。

 歳をとってから、こっちに移り住んで。


 そうそう。

 なのに、あいつら、此処まで追ってきたんだ……」


 え?

 あいつら?

と思ったとき、山本は蘇る記憶につられたよう、一気に老け込んだ。


 そして、火がついたように怒り出す。


「あの人形のせいだっ」

と座敷を振り返り、山本が叫んだ。


「あの人形のせいで、私は殺されたんだっ」


 ええっ?

と思いながら、ほとりは山本の視線を追うように振り返る。


 違う人形であることを祈ったが、がらんとした和室には特に飾られているものもなかった。


「あの人形のせいだっ。

 おのれっ」

と叫んで、山本は消えた。


 ……ひい、と脚立もなくなったそこに立ち尽くし、ほとりは固まる。


「ど、どうでした? ほとりさん」

と青ざめたほとりに伊佐木がこわごわ話しかけてきた。


「ミ、ミワちゃん人形のせいで、山本さんは殺されたらしいです」


 そう言葉を絞り出す。



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