さすが元ヤンキー、ちょっと怖いんだが……



 檀家さんが帰ったあと、環は、一緒に外に出て、松の木の首吊り男となにやら世間話をしていたミワを見る。


 霊の世間話……、なにを話してるんだろうな、と思いながら、環が、


「おい、ミワ。

 例の山本さんが、お前に殺されたと騒いでいるらしいぞ」

と言うと、


「は? 私?」

とミワは元ヤンキーの迫力で訊き返してくる。


「知らないわよ。

 なにそれ」


「俺にもよくわからないんだが。

 ちょっとほとりと話してみろ」

と言うと、


「どーやって」

と言ってくる。


 どうやって……


 どうやってだろうな?


「電話する」


「じゃあ、環、ずっとスマホ持っててよ」


「それもめんどくさいな」


 縁側に置いて、スピーカーホンにしてやる、と言うと、

「スマホって、霊の声通るんだっけ?」

とミワは訊いてくる。


「通ってたろ、確か。

 っていうか、霊現象でどうにかなるんじゃないのか?」

と言うと、


「莫迦ね。

 霊は霊で、神様じゃないのよ。


 なんでも出来るわけじゃないんだって、何度言ったら……」

と言いかけ、ミワはまだ本堂の入り口に立ち、物珍しそうに寺を見上げていた神様を見た。


 それに気づいたらしい神様が、

「私か?

 いや、私は神だから」

と言ってくる。


 神だから?

と思っていると、


「自分のできることしかできんのだ。


 言わなかったか。

 日本には、何故、八百万の神々が居ると思っている。


 自分の担当でないことはできんのだ」

と神様は堂々と言ってきた。


 役所か。


 たらい回しにするな、と思いながら、この神様、なにができるんだったかな? と思ったが。


 家を散らかす、ゴミをためる以外のことはすぐには思い浮かばなかった。


 っていうか、スマホのメールは打てても、霊の声を垂れ流すとかはできんのか。


 どんな細分化だ。


 役所か。


 環は溜息をつくと、神様を使うのは諦めて言った。


「ミワ、行ってこい。

 お前、霊なんだから、ひょっとほとりのところに行けるだろ?」


 行って、訊いてこい、と言うと、ミワがキレる。


「なに言ってんのよ。

 そんな、ひょいひょい簡単に移動できるわけないじゃないっ」

とお前は地縛霊か、というようなことを言ってくる。


「だが、いつぞや、ほとりの友だちに祟ってたじゃないか」


「あれはついてっただけ。

 自力で知らないところになんて行けないわ。


 方向音痴なのに」

と言うミワの言葉に、


 ……霊にも方向音痴ってあるのか、と思う。


 生きてるとき、方向音痴だったら、霊になっても治らないのか?


 じゃあ、ほとりも駄目だな、と思いながら、仕方なく、ミワを乗せて、山本家まで行くことにした。


 なんだかんだで、結局、その方が早いだろうと思ったからだ。





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