この現状はなにかがおかしい……
ほとりは、山本が倒れていた座敷を眺めていた。
ミワにも、山本さんが、自分が死んだのは、あの人形のせいだと言った意味はわからないか、と思いながら。
ちょっと落ち着いて考えてみるか、とほとりは思う。
まず、人形が呪って殺したわけではない。
ミワが入っていない、ただの人形なうえに、ミワが全然知らない山本さんを呪う理由もないからだ。
……話に聞く生前のミワの
霊になったら、なかなか人と目も合わないし、肩もぶつからないもんな。
まあ、関係ないだろう、と結論づける。
じゃあ、あの箱があそこにあったせいで、死んだとか。
つまづいて……。
いや、そんな配置じゃなかったよなー。
つい頭を掻きそうになって、古い映画の探偵が頭を掻くの、なんかわかるな、とほとりは思った。
しかし、なんで頭掻くんだろうな?
頭に刺激があっていいのだろうか。
などと考えたあとで、伊佐木に確認する。
「そういえば、坂本さんから、宅配便受け取ったのって、やっぱり息子さんだったんですか?」
「ああ、そうだと思いますけど。
たまに様子を見に家に寄ってたらしいので、そういうこともあったみたいですよ」
「あの日もそうだったんですか?」
「そうみたいですよ」
「……息子さん、ハンチング帽を被って、コートの襟を立ててたんですか?」
「……そうなんじゃないんですか?」
「自分の実家に顔隠すようにして入ってく人、居ますかね?」
「寒かったんじゃないですかね?」
んー、まあ、そうかもなんだけど。
っていうか、息子さんがそうだと言ってるのなら、そうなんだろうけど、と考えながら、
「息子さんが殺したってことは?」
と訊く。
「そこは、まだ捜査中ですよ。
ただ、被害者と特に仲が悪かったりなんてことはなかったみたいなんですけど。
でもちょっと気になることはありますね」
なんですか? と問うと、
「犯人捕まえてください、とはおっしゃるんですけど。
でも、なんていうか。
いまいち協力的ではないというか。
さっさと事件を終わらせたい感じがするというか」
と伊佐木は考えながら言ってくる。
「じゃあ、その息子が犯人なんじゃない? やっぱり」
と久しぶりにいつもと違う場所に来たので、物珍しげにウロウロしていたミワが戻ってきて、そう言った。
「いや……」
と返事しかけて、伊佐木は詰まる。
霊に返事をしていいものだろうかと思ったようだった。
「どうなんだろうね。
悲しんでないとか、そういう風でもなかったんだけど。
ほら、面倒事嫌う人、多いからね。
殺人だと。
警察にも何度も話を聞かれたりするし。
犯人捕まえて欲しいとは思ってるみたいだけど。
そういえば、いつも、ちょっと伏し目がちに話してるし。
あの人なら、顔隠して歩いててもおかしくないかなあ」
「じゃあ、その息子がなにかの悪事を犯していて、お父さんがそれに巻き込まれて殺されたとか」
とほとりが言うと、
「それだと、あの人形に殺されたって、山本さんが言ってる件はどうなるのよ」
とそこをはっきりさせたいらしいミワが言ってくる。
「じゃあ、人形で撲殺された」
とほとりが言うと、自らの化身とも言える人形で撲殺して欲しくないらしいミワは、ええー? と眉をひそめる。
そこで、近くで聞いていた環が言った。
「ミワ、なにも気づいたことがないのなら、もう帰れ。
捜査の邪魔だから」
「邪魔もなにも俺には半分しか意味がわからんのだが」
と後ろで沼田の声がした。
「なんだろうな。
なにも見えてなくて、聞こえてない俺の方が、おかしな人みたいになっている、この現状はなにかおかしい気がするんだが……」
そう呟いている。
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