犯人にされてますよ
「ナニモナイか……」
騒ぐミワたちの側で、黙って聞いていた環がそう呟くのをほとりは聞いた。
「どうしたの?」
「いや、ふと思っただけだ。
なにかがあって、殺されることもあれば、なにかがなくて、殺されることもあるだろうな、と」
「……なにかがなくて?」
とほとりは口に出して、呟いてみた。
「あるべきものがなくて、殺されたってこと?
例えば、その人形の中に。
でも、あれって、繭のところに来る予定だったものが此処に来ただけよね?」
待てよ。
山本さんの息子さんは、人形は何処だと言って、殴られたって言うんだったか、と思い出す。
「息子さんを殴った人は、なんで誤配達なのに、あの人形が山本さんちにあることを知ってたんでしょうね」
「見てたんじゃないですか? 何処かから」
と伊佐木が言う。
「それか。
その男が山本さんを殺した犯人か」
「じゃあ、なんで山本さんを殺したとき、人形持って逃げなかったんでしょう?」
とほとりが突っ込んで訊くと、
「うーん。
動転してたからとか?」
と伊佐木は言ってくるが。
いや、関係ない山本の息子を殴ってまで手に入れようとしているものを動転して忘れて逃げるとかあるだろうかな、と思っていると、伊佐木が、
「……そうか、わかったっ」
と声を上げた。
「犯人は坂本さんですよっ」
と叫び出す。
「……え? 坂本さん?
なんでですか?」
いきなり犯人にされた、そもそもの依頼人であるはずの坂本の人の良さそうな、というか。
ちょっと間の抜けた顔を思い返しながら、ほとりは訊いた。
「だって、坂本さんは、此処に人形を誤配達した張本人だから知ってるじゃないですか。
此処にあの人形があること。
坂本さんは、きっと、なにかの売人だったんですよっ」
なにかって、なんのだ、と思ったが、ほとりは特には突っ込まずに、続きを聞くことにした。
なにかがちょっと気になっていたからだ。
「で、そのブツが見つかりかけて、繭さんの人形の中にそれを入れて隠したんですよ。
でも、繭さん本人に渡すと、すぐに人形を取り出してみて、気づかれる。
そう思った坂本さんは、よく似た名前の山本
しばらくして、山本さんが、おや、これはうちの荷物じゃない、と気づいて、連絡してくるまで、猶予ができるじゃないですか」
「いや、普通、すぐに気づいて渡してくると思いますが……。
それに繭に渡した方が――」
と言いかけ、ほとりは、やめた。
繭の方が受け取った人形はそのまま、押し入れにポイッとしてしまうので気づかなかったと思うのだが。
これは、人に言うことはできない。
じゃあ、なんで人形買ってんですかと突っ込まれてしまうからだ。
何処から繭の罪がバレるかわからないので、口にすることはできなかった。
うーん、と唸ったあとで、ほとりは言う。
「その説、なにかいろいろと穴がある気がしますが。
……でも、なんででしょうね。
なにかが悪くない気がします」
「えっ? ほんとですかっ?」
と単に素人探偵に言われただけなのに、何故か、ちょっと嬉しそうな顔をした刑事の伊佐木は、
「じゃあ、やっぱり、犯人は坂本さんで」
と勢い込んで、言ってきた。
沼田が勝手に話を進めるなっ、という目でこちらを見ている。
いやいやいや、とほとりは言った。
「悪くないって言ったのは、犯人のとこじゃないですよ。
『中になにかがあると思ってる』、あるいは、『あると、思ってた』ってとこです」
「誰がですか?」
「だから、犯人。
あるいは、その一味がですよ」
とほとりは言う。
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