手を外して、足を外して……

 


 やめてーっとミワは沼田に向かい、叫んでいたが、もちろん、ミワの声は沼田には聞こえない。


「ああいう人形って、どうやってバラしたらいいんだろうな。

 腕とか脚とか、引っ張ったらとれるのか?


 それとも、なにかで切断した方がいいのか?


 腹も開けてみないとな。

 なにか小型の記録メディアとか仕込んであるかもしれん」


「やーめーてー、グロいーっ」

とミワは悲鳴を上げているが、いや、バラされるのは人形だってば、と思って、ほとりは聞いていた。


「このおじさん。

 いつぞや、ユーレイ寺の蔵をどうのこうの言ってたけど、おじさんの方がよっぽど、陰惨な昔のミステリーの登場人物みたいじゃないっ」

とミワは沼田を指差し、叫ぶ。


 うーん、とミワの声が聞こえている伊佐木はひとつ唸ったあとで言う。


「でも、中身じゃなくて、人形そのものになにかあるのかもしれませんよね。

 ミワちゃん人形もたくさんあるんでしょうが。


 あの誤配達されたミワちゃん人形になにか思い入れがある人が居て、探してるとか」


「人形に変な思い入れのあるオッサンとか現れたら嫌よっ」

とまたミワが叫ぶと、伊佐木が遠慮がちに訊いてきた。


「……あのー、ほとりさん。

 この方は、何故、さっきから、ずっと叫んでいるんですか?」


 いやあ、とほとりが苦笑いしている後ろで、ミワが絶叫する。


「だいたいさあ。

 いつも呪いの人形、呪いの人形って言われてるけど。


 私、繭以外、呪ってないからねーっ」


 あ、こら。

 なに自分でバラしてんだっ? と思うほとりの横で、伊佐木が言ってくる。


「あの、この人、もしかして、あの人形の霊なんですか……?」


 そういえば、似てる、と呟く伊佐木に、ほとりは言った。


「そうなんです。

 繭の扱いが雑で化けて出てるんですよ。


 束で買って、放り投げてるから」

とほとりが適当に答えていると、沼田が、


「どうした、そこ。

 うるさいぞ」

と言ってくるのだが。


 沼田さんにはミワの声は聞こえていないはずだから、今叱られてるのは、私たちなんだろうかな……とほとりは思う。


 ……心外だ。

 騒いでいるミワをなだめているだけなのに……。


「まあ、ともかく、一応持ち主である山本繭に許可取って、人形は鑑識で分解してもらえ」

と沼田が言う。


 その後、すぐに伊佐木が電話し、ミワはバラバラにされたようなのだが。


「ああ、痛い気がする。

 なんか痛い気がする……」

とその人形とリンクしているわけでもないのに、わめき続けるミワたちの許に五分と待たずに入った連絡によると、人形の中にはなにもない、ということだった。


「なんだ。

 事件の鍵を握っているかと思ったのに」

と沼田が呟き、伊佐木が、


「まあ、誤配達された人形ですからね~」

と苦笑いしていた。


「やはり、関係ないのか」

と言う沼田の背後で、


「でっしょーっ」

とミワは勝ち誇っていたが。


 ほとりは、いや、だから、あんたと配達されたあの人形、なにも関係ないんでしょうが……と思っていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る