なんかすごい権力持ってるんじゃないの?



 結局、繭は山本家から警察に連れて行かれ、事情聴取を受けることになった。


 庭先に居たほとりは、連れて行かれる繭を見ながら、まだ和室をウロウロしていたノブナガ様を呼んだ。


「ノブナガ様、繭についてってやってください。

 お願いします」


 まあ、繭にノブナガ様は見えてないし、見えてても、なんの役にも立たないのだが、なんとなく。


 すると、ノブナガ様は、こくり、と頷いた。


 あ、会話、通じた。


 通じるんだ?

とほとりが思っていると、ほとりの横に突っ立って見ていた神様が、


「じゃあ、私も行こう」

と言い出した。


 いやあのー、神様行ってくださるのなら、ノブナガ様は行かせなくてよかったんですが。


 行かせたところで、取り調べのなにを報告してくれるわけでもないし……。


 神様に頼むのも罰当たりな感じがして、つい、遠慮してしまったのだが。


「心配するな、ほとり。

 繭がライトを当てられて眠れないようにされたり、電話帳で殴られたりしないよう、私が見張っていよう。


 まあ、見張っているだけだがな」


 ですよねー……。


 この人もいまいち、役に立たないかも、と思いながら、

「繭」

とほとりは、今、まさに覆面パトカーに乗せられんとしている繭に呼びかけた。


「大丈夫よ。

 神様とノブナガ様がついてるから」


 繭は笑っていたが、横に居た伊佐木順平いさき じゅんぺいという若い刑事が、繭に、

「……なにか新興宗教でもやってるんですか?」

とちょっと怯えたように訊いていた。





「ミワー、何処なのー?」


 その後、家に帰ったほとりは、ミワの名を呼び、声を上げた。


「繭、警察に連れてかれちゃったわよー」


 そう言うと、ちょうど、和室を歩いていたところだったらしいミワちゃん人形が、ぱたりと倒れる。


「なんでよ?」

といきなり、真横で声がして、


 なんで、こっち!?

とほとりは、ビクッとして横を向いた。


 女子高生姿のミワが立っている。


「もうっ。

 こんなとこで呑気に挨拶してないで、繭にとり憑いててくれればよかったのに。


 まあ、神様とノブナガ様がついてってくれたけど」


 だが、刑事だけではなく、繭にも見えてないので、彼らが一緒に居てくれて、心強いかどうかは知らないが……。


「あとで、環が警察覗いてみるとは言ってたけど」


 檀家さんの家に行く予定があったので、先にそっちに行ってしまったのだが。


「繭は、なんで警察に連れ去られたの?」


「ミワの件じゃないわよ、別件。

 ああでも、ある意味、『ミワちゃん』のせいだけど」

とほとりは、あのミワちゃん入りのダンボールが殺人現場にあったことを語り、


「なんであそこにあったの?」

と訊いてみたのだが。


「知らないわよ。

 あれは繭が自分でやってるのよ。


 私がやってるんじゃないから」

とミワは言う。


 やはり、人形を取り寄せているのは、繭本人だったのか、とほとりは思った。


 おのれの罪を忘れまいと無意識にやっていることなのだろう。


 まあ、ミワ本人は元からあった一体が焼けるまでは、ボロボロになっても、ずっとそれを使ってたみたいだもんな、と思ったとき、


「ねえ、環はなんかすごい権力持ってるんじゃないの?

 繭を留置場から出してくれるように言ってよ」

とミワが言ってきた。


「いや、繭、留置場入れられてないし。

 ちょっと話を聞かれてるだけよ。


 それから、なんかすごい権力があるのは、環のお父さん。


 環も犯罪者だもん。

 警察に口出すなんて無理よ」

と言うと、


「役に立たないわねえ。

 こんなときのための政治家でしょ?」

と無茶を言ってくる。


 しかし、困ったな、と思っていた。


 あの人形に関しては、ミワ本人は関知していないようだ。


 ということは、彼女にも、何故、あそこにあれがあったのかわからないということだ。


「やっぱり、宅配のおにいさんに確認してみるか。

 いつも同じ人が配達してるわけじゃないだろうから、坂本さんが知ってるかはわからないけど」


 ま、警察が先に調べてるだろうけどな、と思うほとりの横で、ミワが、

「繭を解放しないなら、私が警察の連中、脅してくるわ」

 などといきどおっている。


「いやまあ、繭名義の宅配便があったから呼んだだけだと思うけどね」


 取り調べをするのは、刑事たちで、繭に私怨のある鈴木や飯田ではないから大丈夫だとは思うが。


 ……思うが。


 地元の署の刑事さんたちにも、年頃の娘さんや、彼女や、奥さんが居るんだろうな、と考えると、彼らが鈴木たちのように、繭によくわからない恨みを抱いていないという保障もないのだが……。


「ああでも、ミワ。

 見えない人間脅しても、脅す方が莫迦みたいな感じになるからやめときなさいよ」

とほとりは忠告する。


 見えてもいない刑事の横で、うらめしや、と言ってみても、ミワがむなしいだけだろう。


 ミワちゃん人形に入れば、誰でも見えるが。


 これはなんだということになって、繭の過去の犯罪が明らかになってしまうかもしれない。


 っていうか、既に危ない。


 あの人形のことを調べられたら、繭が繰り返し、同じ人形を購入していることがバレてしまう。


 そこから、ミワの事件にたどり着くかはわからないが――。


 この事件、さっさと解決しなければ、かなり、まずい事態になるような……とほとりは不安になる。


 もっとも、繭にそう言ったら、

「なんだよ。

 いつも自首しろって言ってるくせに~」

と笑うに違いないのだが――。



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