適当だなあ……
「沼田さん、この人たち、あそこのお嬢さんを霊だって言うんですよ」
沼田はいきなりそんなことを言い出した伊佐木の言葉を聞かぬフリをした。
何処にお嬢さんが居るというのだ。
いや、長谷川環の妻なら居るが、あれのことではないらしい。
伊佐木は誰も居ない場所を見て、
「いやいや、
とか笑って言っている。
だから、誰に話しかけている……。
「この変な人形も貴方がたの仕業ですね」
と言いながら、伊佐木はおのれの左肩を指差したあとで、
「あ、降りた……」
と言いながら、机の上を見る。
だから、なにが……?
と思いながら、沼田は伊佐木の視線を追ったが、こたつの上には、大量のみかんがあるだけだった。
「これ、なにで動いてるんですか?」
と伊佐木に問われたほとりは、
「さあ?
私も、これに関してはちょっと……」
とよくわからないことを言い、苦笑いしていた。
自分の常識に当てはまらない出来事を、意識からシャットアウトし、沼田は唐突に事件の話を始めた。
「ところで、あの現場に落ちていた人形なんですが。
山本繭さんは、何度もあの人形を購入されているようですね。
何故ですか?」
繭は淡々と、
「仕事で入り用だったんです」
と答えてくる。
「仕事?」
「それ以上は、お客様の個人情報なので、ちょっと」
と繭は
「ああいう商品にはマニアの方がついてらっしゃいますからね」
と言う。
マニアね……と沼田は呟いたあとで、
「それにしても、まったく同じ人形を何個も購入する意味はあるんですかな」
と問うてみた。
「あるらしいですよ。
例えば、全部違う服を着せて飾るとか」
「そんな人が居るんですか?」
「まあ、もしかして、孫がたくさん居て、全員に配ってるのかもしれませんが」
と言う繭に、
「……その人、どんだけ孫が居るんですか」
と沼田は呟く。
「でも、貴方、あの人形、三百体以上買ってますよ」
と繭が沼田に言われるのを聞きながら、ほとりは、こたつの上でみかんをつつき始めたノブナガ様を見ていた。
そんなにか……と思ったが。
繭が罪を悔いて生きてきたこの年月を思えば、多くはないのかもしれない。
「ともかく、僕はお客様のプライベートに関しては、これ以上、答えられませんからね、プロとして」
と繭は言う。
それは立派なことだな。
警察としては、困ったことだろうが、と思っていると、繭はおもむろに、おのれのスマホを取り出し、
「でも、このままではなんですので。
今からお客様に自分があの人形を受け取ったという証言をしていただきます」
と言い出した。
おい。
プロとしての
と思いながら、いきなり電話をかけ始める繭をほとりたちは眺める。
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