あっ、こんなとこからこんなものがっ的なラッキー


 あれから、ほとりと繭はまだ、家を片付ける、片付けないで揉めていた。


「あんまり家が綺麗だと、あっ、こんなとこからこんなものがっ的なラッキー! とか、助かったーとかないじゃない」

と言うほとりに、繭が、


「それ、片付けない言い訳だよ、ほとりさん」

と言ってくる。


「……だから、あんたには言われたくないわね~」

とほとりが言ったとき、


「こんにちはー」

と玄関先からまた、若い男の声がした。


 ん? 誰だ?

 坂本さんが戻ってきたわけではないようだが、と思っていると、その若い男が外でいろいろ言い始める。


「いや、古くて大きな家なんで、つい。


 この家、チャイムないんですかね?


 あ、あった。

 謎の観葉植物の後ろに。


 でも、これ、絶対、途中で、配線切れてますよね」


 ……決めつけるな。


 っていうか、丸聞こえだが、と思いながら、なんとなく、みんな黙って、そのやりとりを聞いていた。


「こんにちはー。

 警察ですー」


 先程から声を張り上げていたのは、現場に来た若い刑事、伊佐木のようだった。


「間に合ってますー」

と小声で繭が言っている。


「長谷川さんー。

 警察ですー」

と沼田らしき男が言い、


「山本繭さんもこちらですかー?」

と訊いてくる。


 そろそろ出ねばな、とこたつから重い腰を上げると、環も立ち上がる。


 鍵も怪しいすりガラスの玄関を、はい、と開けると、目の前に居た伊佐木が、うわっ、と声を上げ、赤くなって逃げた。


 いや、すりガラスだから、近づいてきたのは、わかっていただろうに。


 何故、驚く……。


 注意散漫な刑事だな、と思っていると、

「警察ですが、ちょっとお話を聞かせていただきたいんですが」

と沼田が言ってきた。


 だが、ほとりは伊佐木の肩の上でくつろいでいるノブナガ様に目が釘付けで、返事もしなかったので。


 なにやってんだ、という顔をしながら、環が、

「はい」

と返事をしてくれた。











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