すみません。犯人違ってましたねー
その後――。
「すみませんー。
犯人、繭さんじゃなかったですねー、はいこれ」
と繭は、伊佐木に、詫びにと笑顔でみかんを渡されたそうだ。
「というわけで、はい」
と繭は、そのまま、そのみかんを箱ごと寺に持ってきた。
で、寺を訪ねてきたおばあちゃんたちが日々、それを食べている。
「……これもなにかのノルマなのかしらね」
本堂の隅に積み重ねられたみかんの箱を見て呟くほとりの横で、環が言った。
「恐ろしいな、田舎……」
あのあと、坂本も、
「どうもありがとうございました。
お世話になりましたー」
と言って、もう一箱持って来たのだ。
しばらく、みかんにだけは困りそうにない。
山本
瀧川に死体を始末してもらって、ちょっとすっきりした顔の桧室は苦笑いしながらも、山本の話を聞いてやっていた。
竹箒を手に、庭先に出たほとりは、そんな山本たちを見ながら、
「もうこの寺のモノ、成仏させていいはずなのに、数が増えていってるのは何故かしらね……」
と呟く。
竹箒の柄の先端にはノブナガ様が乗っていて、座敷には肝心なときには出てこない、ワタシ ミワチャンヨが居る。
山本が最初は人形のせいで殺されたとか言っていたので、
「これもミワちゃんによる殺人かと思ってたけど、違ったね」
と環に向かい言うと、いつの間にか側に来ていた女子高生姿のミワがわめき始める。
「『も』ってなによっ。
私は誰も殺してないわよっ」
「ああ、ごめん」
そういえば、殺された方だったな、と気がついた。
「なんか犯人の繭より、ミワの方があくどい感じがするから、ついつい」
と笑うと、
「誰があくどいのよ。
私がやったのは、恐喝だけよっ」
とミワは主張し始める。
いや~、それ、世間的には、充分な悪だと思うんですが……。
そんなやりとりが耳に入っているのか、いないのか。
庭先にしゃがんでいる繭は、霊体のシロのために犬小屋を設置してやっていた。
自分で作るんじゃなくて、小洒落た小屋を買ってくる辺りが、繭らしいが……。
ふと、ミワが静かになったな、と気づく。
彼女は、黙って、そんな繭を見ていた。
心地の良い風が吹いていたが。
その風に、ほとりの髪は揺れているが、ミワの髪は揺れていない。
此処でこうしている限り、ミワには、吹き付ける風も土の匂いも感じられないし。
大好きな繭に触れることすらできない。
ほとりは、この間、
ミワはそろそろ生まれ変わりたくなっているのではないだろうか。
そう思っていたが、黙って繭を見つめるミワを見ていると、なんだか寂しくなり、
「ねえ、もうちょっと此処に居てもいいんだよ」
と言ってしまう。
赤くなったミワに、
「なに言ってんの」
と言われ、環には、
「……成仏させたいんじゃなかったのか」
と言われてしまったが――。
そのとき、縁側の方から声が聞こえてきた。
「私、ほとりよ。
今、お掃除してるの」
ん? と見ると、縁側に置いていたほとりのスマホが勝手に点灯している。
その横には腕を組んで立つ神様が。
「あっ、また、なに勝手に返信してるんですかっ」
「いやいや、忙しいかと思ってな」
と笑うが、単にやってみたかったようだ。
すぐに来た返信を神様が読み上げ始める。
「『だから、お前は誰だ?』
『神だ』」
また、和亮かーっ、と慌てて取り返しに行くほとりの後ろで、繭が言う。
「なんでだろうねー。
ほとりさんに、『私、今、お掃除してるの』とか言われると、『私、今、貴方の後ろに居るわ』って言われるのと変わらないくらいホラーな感じがするのは」
「どっちもありえないからだろ」
と環が答えていた。
どういう意味だ……と思うほとりの前でスマホが鳴り始めた。
神様からの訳の分からない返信にキレた和亮が電話をかけてきたようだ。
成仏しない霊が減るどころか増えているのも問題だが。
霊より厄介な人間が増えているのも問題だ。
だが、高台にある寺に吹き付ける山風に、ほとりの髪が揺れ、風関係ないのに、首吊り男が揺れ、
まあ、なんだかんだで、ユーレイ寺は今日も平和だ。
……たぶん、
まあ、きっと――。
『あやかしの家』
完
ユーレイ寺の嫁 ~このお坊さん、成仏させないんですけどっ~ 2 櫻井彰斗(菱沼あゆ) @akito1
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