警察に通報するぞ
「不法侵入と誘拐未遂で警察に通報するぞ」
暖かい部屋の中に入りながら、環が振り向き、言ってくる。
「うるさいぞ、横領犯」
とついてテレビの間に入りながら、和亮が言い返していた。
……此処には犯罪者しか居ないのだろうか、とおのれも死体を押し戻して隠しているほとりは思う。
「そもそもお前、なにしに来た」
と言う環に、掘りごたつに潜り込んだ和亮が言う。
「田村先生から伝言だ。
早く返せ、金。
遅くとも春までに」
「……選挙か?」
と環が呟く。
それには答えずに、和亮はミカンくれ、とこたつの上に手を伸ばした。
「くつろぐなっ」
と怒鳴った環だが、そのまま和亮と二人、ミカンを食べ始める。
こたつ入ると争いを忘れるよな~。
眠くなってくるし、と思いながら、ほとりも座椅子に背を預け、こたつに深くもぐった。
三人で、ぼんやり、テレビを見ながらミカンを食べていると、和亮が愕然としたように騒ぎ出す。
「なにやってるんだっ、俺はっ」
いや、ほんとに……。
「凶器だな、こたつっ。
このメンツで和んでしまったじゃないか!」
先程から、ノブナガ様がカゴに盛られたミカンをつついていたのだが。
なにを思ったが、吊橋を渡るように少しよろめきながら、和亮の腕の上を歩き、肩にのった。
そのまま、そこに座っている。
気に入ったのだろうか……。
なにも見えてはいない和亮は気づきもせずに、ノブナガ様を肩にのせたまま、わあわあ文句を言っている。
見えないとは平和なことだな、と思いながら、
「あ、そうだ」
とほとりは言った。
「今日、宅配業者の人から依頼を受けたわ」
「依頼?
葬儀のか?」
と和亮が口を挟んでくる。
「違うわよ。
たまに宅配持ってく家がね。
人の気配があるのに、誰も出てこないんですって。
一回、入ろうとする人が受け取ってくれたらしいんだけど。
それ以来、誰かが出入りするところに出くわさないし。
それで困ってるらしいのよ」
「なんで、それをお前に依頼してくる?」
環が口を開きかけたとき、和亮がそう訊いてきた。
「いや、ほんとに人が中に居るのか。
霊なのか、知りたいから、ちょっと見てきて欲しいって言われたんだけど」
また、
「報酬は?」
と先に和亮が訊いてくる。
「お金なんていいですって言ったら、繭のところで、甘いもの、十回ただで食べさせてもらえることになったの。
代金払ってくれるんですって。
環も一緒に食べに行ったら、五回かな」
「なんだ、そんなはした金」
と肩に、まるで木の枝に腰掛けているかのようなノブナガ様がのせたまま、和亮が言ってくる。
「ほとり、俺が予言してやろう。
お前は、その甘いもの程度の報酬で引き受けた依頼により、大事件に巻き込まれるだろう」
なんの託宣だ……と思っていると、和亮は言ってきた。
「お前は、事件に巻き込まれやすいからな。
っていうか、今現在、巻き込まれてるじゃないか。
四億円横領事件に」
どっちかというと、強奪事件では、と思いながら、
「そういう言い方されると、すごい事件みたいね」
と言って、
「すごい事件なんだよっ」
と自分たちの自覚のなさを責められる。
環が面白くなさそうにこちらを見ているのは、おのれの罪うんぬんを言われているせいだろうかな、とほとりは思った。
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