実は犯人なんじゃないの?


 坂本が帰ったあと、ほとりが、

「繭、みかん、全部持って帰りなよ。

 巻き込まれて迷惑かけられたの、主に繭だから」

と言うと、繭は、


「いや、いらないよ」

と言ってくる。


「僕、ひとり暮らしだし。

 そんなにいらないよ。


 っていうか、殺人犯と疑われたのをみかん一箱で済まされるのもねー」


 いや、ひとり暮らしって。


 貴方は、大量のミワちゃんと暮らしていると思いますが、と思いながら、ほとりは、こたつの上にポイ、と坂本が投げて帰った裸のミワちゃんを眺めた。


 さっきから、横に居るミワが真っ赤になって、


 いや~っ。

 やめてーっ。


 みんなで、なんとなく見つめないでーっという顔をしている。


 いやいやいや。

 貴方、いつもその格好で見知らぬ人を脅したりしてるじゃないですか、と思ったのだが。


 自分の意思関係なく、こたつの上に、全裸の自分をぽんと置かれて、大勢に凝視されるのは耐え難いようだった。


 だからと言って、その状態のまま、人形の中に入って動かして逃げるのも恥ずかしいらしい。


 ……これにりて、人形で日向ひむかいさんとか、お客様を脅すのやめて欲しいんだが、と思いながら、ほとりはミワをつかむと、和室の方に持っていった。


 ミワは、ほっとしたようにそれを見ていた。


 戻ってきたほとりは、

「とりあえず、なんとかして、繭の無実を証明しないとね」

と言ったのだが、繭は、


「こたつに首のっけてそんなこと言われても、あんまり必死感伝わってこないよね」

と言う。


 ほとりは出来るだけ深くこたつに潜ろうと、両手をこたつに突っ込み、背中を丸めていたので、そんな体勢になっていたのだ。


 いやいや。

 冷え切った和室が寒かったんですよ、と心の中で言い訳しながら、


「ところで、殺された山本さんって何者なの?

 警察で訊いた?」

と繭に訊いたが、繭は眉をひそめ、


「山本さん、苗字で呼ぶのやめてよ。

 僕が殺されたみたいだから」

と言ってくる。


 繭でもそんなこと気にするのか、と思っているうちに、繭は語り出した。


「あんまり教えてもらえなかったけど。

 ひとり暮らしのお年寄りみたいだった。


 ああ、お年寄りじゃないか、最近の感覚なら。


 七十、八十とかでも、最近の人は、まだまだ現役っぽいよねー」


「七十、八十かあ。

 じゃあ、この間、坂本さんが見たって人は誰なのよ」


「身内じゃない?

 息子さんとか居るみたいだから。


 今は別に暮らしてるみたいだけど」


 そうかー、と言いながら、まだこたつの中で手を温めるように動かしていると、なにかに手をつかまれた。


 布団をめくり、掘りごたつの中を覗くと、子どもたちがきゃっきゃと面白がるようにこちらを見ていた。


 ……かわいいけど、ちょっと怖いぞ。


 いつの時代の子どもたちなのか、いわゆるイガグリ頭なその頭を撫でてやると、みんな満足してすぐ消えた。


「なにしてんの? ほとりさん」

と繭が訊いてくる。


「いや、こたつの中の子どもたちに手をつかまれて」

と言うと、


「……入る気失せるようなこと言わないでよね」

と繭は言う。


「じゃ、ともかくー」

と言った瞬間、また手をつかまれた。


 これこれ、話をさせて、と中を覗いたが、子どもは居ない。


 誰っ? と見たが、位置的に繭しか居ない。


 だが、繭は素知らぬ顔をしていた。


「もうっ、繭っ」

とすぐ斜め前の繭を睨んだが、


「えっ? なにっ?」

と言う。


 本当になにも知らないかのようだ。


 いやいや。

 繭だからな。


 っていうか、繭だったとするなら、このしらばっくれ方が怖い、と思っていた。


 うっかり信じてしまいそうだ。


 犯人だったとしても、この演技だったら、騙されるな、と思いながら、

「実は、今回も繭が犯人なんじゃないの?」

と言って、


「なんでそうなるの。

 発想飛ぶよねー、ほとりさん……」

と言われてしまった。





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