リサイクルよ



 伊佐木たちが外のトイレに行っている間、ほとりとミワは縁側のところで揉めていた。


「蔵の箪笥にも樽にも新しい身体、いっぱいあるんじゃない。

 新しいの送りつけないで、こっち使いなさいよ」


 リサイクルよ、とほとりはミワに言う。


「それ、私が頼んでるんじゃないし」

と女子高生姿の彼女は腕を組み、言ってきた。


 やはり、繭自身が罪の意識から、ミワちゃん人形を次々と頼んでいるようだった。


「じゃあ、繭がピピッとクリックしそうになったら、止めなさいよ、もったいない」


「嫌よ。

 繭が買わなくなったら、他に需要がなくて、製造中止になっちゃうかもしれないじゃない」


 そんな莫迦な……。


 そもそも今、生産してるのか? そんな昔の人形。


 在庫送ってるだけなんじゃないだろうか、と思うほとりの前で、ミワは言う。


「それに、そんな漬け物くさい人形に入るの嫌よ。


 祟って出ても、漬け物の匂いがしたら、なんだか平和な感じになっちゃうじゃないの」


「あら、人形が漬け物くさくても、気にしないわよね? 繭」

とほとりが振り向き訊くと、


「……なんで、祟られてる人間に訊くの?」

と繭は言う。


 そのとき、トイレから伊佐木たちが戻ってきた。


 あ、また、あの人形、という顔を伊佐木がする。


 だが、その視線の先にあるのは、全裸のまま縁側に転がされているミワちゃん人形ではなく、ミワの肩の上のノブナガ様だった。


「……沼田さん」

と伊佐木が小声で沼田に話しかけている。


「あれ、見えてますか?」

とノブナガ様を指差す。


「どれだ?」

と言う沼田にはミワすら見えてはいなかった。


「あのちっちゃい人形ですよ」


「……見えてるが?」


 ノブナガ様もミワも見えない彼の目には、その向こうのミワちゃん人形が見えているようだった。


「あれ、動くんですよ」


 ヒソヒソと伊佐木は言っている。


「そういう噂は聞いたことがあるな。

 この寺に呪いの人形が出るという――。


 これのことだったのか」


「……なるほど。

 呪いの人形だったんですか」


 全然違う話をしているのに、何故か会話が噛み合っている……と思いながら、苦笑いしているほとりの前で、沼田は、

「まあ、とりあえず、今日のところは帰りましょう」

と言ったあとで、振り返り、夕日に染まった白い蔵を見ると、


「ところで、あの蔵、少し中を見せてもらってもいいですかな」

と言ってきた。


 ――何故っ!?





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