何故か、クイズ形式だったよ


「ところで、山本ちかしさんの死因はなんだったの?」

とほとりは繭に訊いてみた。


 だが、

「それが教えてもらえなかったんだよ」

と繭は言う。


「……教えてもらえないとかあるの? 犯人なのに」


 ああ、いや、犯人だと思われてるのに、とほとりが一応、言い直すと、


「もし、犯人なら、知ってるだろうと言われて、こっちがどうやって殺したのか、訊かれたよー。


 まだ遺体は病院で調べてる最中みたいだから、決定的な死因は警察もまだよくわかってないんじゃない?


 でも、こんな田舎じゃ、ちゃんと調べられるかも怪しいよねー。


 ともかく、そのあとは、クイズ形式だったよ」

と繭は言ってくる。


「クイズ形式?」


「だから、死因がなんなのか、知ってるだろって言われたから。


『刺殺?』

 って言ったら、


『なんにも刺さってなかったろっ』

 って、あの沼田って刑事に言われて。


 でも、わかんないよねえ。

 見えないとこに、なにか刺さってたかもしれないじゃない」

と繭は言う。


「そんな見えないようなものが刺さってても死ななくない?」

とほとりが言うと、


「毒がついてたのかもしれないじゃん」

と繭は反論してくる。


 いや、それだと、毒殺だと思うが……。


「じゃあ、絞殺? って言ったら、今度は、首に痕ついてなかったろって怒鳴られて」

と繭は、自身が絞殺したミワの前で言う。


 だが、ミワも特に気にしている風にもなかった。


「じゃあ、撲殺? って言ったら、


『そうだな。

 そんな感じがするんだが』

 って言ってたよ」


 ……やっぱり、わかってないじゃん、警察、とほとりは思った。


 まあ、東京とかみたいに、監察医務院があるわけでも、大病院があるわけでもない。


 こんな町で、普段は殺人事件なんて起きないだろうから。


 一応、委託されている病院のおじいちゃん先生が、よろよろと遺体を見ているイメージだ。


「山本さんて、僕はよく知らなかったんだけどさ」


 自分が苗字で呼ぶなと言ったくせに、やはり、よく知らない人を名前で呼ぶのは抵抗があったのか、繭は山本ちかしを苗字で呼んでいた。


「いつくらいか、あの家買って越してこられた人らしいんだけど。

 特に周りとトラブルもなかったみたいなんだよねー」


 繭は呑気にそう言うが、トラブルがなかったというのが本当なら、余計、犯人は繭ということになってしまわないだろうか?


 そう思ったあとで、ん? と気づく。


「繭の箱が横に転がってて、行き倒れて死んでて、縁側の鍵も開いてたから、勝手に事件だと思ったけど。


 よく考えたら、事件じゃないかもしれないわよね。

 自然死かも」

とほとりは言った。


 どのみち、今は、病院以外で死ぬと事件性がないか調べに、警察が来てしまうのだが。


「いや、それがさ。

 奥の部屋に警察が入ってみたら、荒らされてたみたいなんだよね」

と繭は言う。


「単に、散らかってたんじゃない?」

とほとりは言って、


「……ほとりさんじゃないんだよ?」

と繭に笑顔のまま言われた。


 他の部屋は綺麗だったじゃん、と繭は言うが、

「お客さん通す部屋とか、目につく部屋とかだけ、綺麗にしてたんじゃない?

 私なら、急に人が来たときのために、まず、そうする」

とほとりが言うと、繭が、


「……片付けなよ、ほとりさん」

と言ってきた。


「誰に言われたくないって、あんただけには言われたくないわね~」


 片付けられない二人は、事件とは関係ないところで、睨み合う。




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