第16話 社畜代表の平日 その2

ワイバーンの背中に揺られて15分。 いつもよりかは少しゆっくりめなスピードで、今日も無事に職場に着く。しかし、この後が無事とは誰も言っていない。私のSAN値はこの魔王城で擦り切れていくのだ。

「なんで魔王にも効く仕掛けがついているのだろう?」そう思う程ここの魔王の間ではSAN値が削られる。そもそも人間に対抗する罠とかないけど。別に魔族は人間と戦おうという気は毛頭ないからね。

そんなモノローグを展開しながら魔王城に入り、いつものゴツイ装飾の付いた正装に着替えて魔王の間へと向かう。


「おはようございます魔王様」

「げ……。今日アンタ来る日だっけ……?」

「急遽予定が変更になったので」


そうすまし顔で答えるのは、私の側近ことサラ。彼女は普段下の事務で働いているのだが、事務の仕事が一通り片付き手が空いた日はこうやって私の側近として来る。サラとは長い付き合いで同期なのだが、何分お堅くて仕事をサボらせてくれない。というのも、私が前に仕事をサボり過ぎて色々と問題になったのが原因なのだが……。


「さて、めんどくさい監視官殿に文句言われないうちに仕事しますかな」

「珍しいですね、魔王様が自主的に仕事を始めるとは……」

「私だってやるときはやるのよ。それに早めに仕事終わらせれば定時に帰れるかもしれないじゃない」

「分かっていただいている用なら問題ありません。11時から各支部との会議が設けられておりますので資料はまとめておいてください」

「分かってるわよ。アンタの正面の棚にあるわ。上から3列目の真ん中辺り。チェックは一応してあるけど再度確認頼める?」

「了解しました。……そうですね、特にこれと言った問題は見つかりませんでした」

「おっけー。じゃあ時間近くになったら教えてくれる?」

「了解しました」


会議までにやる事は一通り終わったので、今日の仕事のノルマをさっさと終わらせに掛かる。

どうせ仕事が後から増えるのは分かってはいるが、早く帰れるに越したことはない。

というわけで、いつも通り死んだ目をしながら仕事の山を片付ける。

これぐらいの量ならすぐ終わるだろう。伊達に魔王はやってない。

そのまま仕事を黙々とこなしていると、サラが私に声を掛けてくる。


「魔王様、そろそろお時間です」

「……ん、分かったわ。それにしてもだいぶ片付いたわね。この調子なら3時には終われるかな?……ま、追加の仕事が来るから無理でしょうけど……」

「昔からそのようにしていればもっと出世が早かったのでは?」

「どうせ先代が引退するまでは魔王になれなかったわよ。まぁ昔はサボってた時もあったけど仕事は一応終わらせてたしぃ? だから多分関係なかったわよ? それより今度飲みに行かない?」

「まだ勤務中ですよ魔王様。プライベートの話は勤務時間外にお願いします」

「ホントサラはお堅いわねぇ」


別にサラは普段からこんなにお堅い訳では無い。仕事の時だけ態度や言葉遣いが変わるのだ。普段は敬語なんかじゃなくてもっと砕けた感じに喋っているし、今でも月1で一緒に飲む仲だ。もちろん居酒屋で飲む時が殆どだが、たまに私の家でも飲む時がある。

サラはロッゾとも一応面識があるし、私が既婚者な事も知っている。なんせ私がロッゾと付き合い始める前からの付き合いだ。サラには色々とアドバイスを貰ったし、サラのお陰でロッゾと結婚出来たと言っても過言では無い。

サラは私達の関係の事に理解があるし、最近は魔族と人間が結婚する事も少しづつ増えて来た。まぁ魔王と人間の夫婦っていうのはイレギュラーだけど……。

そんな事を考えながら準備を済ませる。


「さて、準備も出来たしそろそろ行きましょうか?」

「了解しました。外に魔王様用のワイバーンが用意されているので、それをお使いください」

「えぇ……。私いつも通勤に使ってる子に乗りたいんだけど……」

「魔王様の威厳を示す為です。ここはどうか1つ、お願い致します」

「ホント堅苦しいわね。子供産んだら魔王辞めようかしら……」

「それは困ります」

「冗談よ冗談。さて、外に移動しようかしら。サラは来るの?」

「今日は事務の方の手が空いているので御一緒します」

「それじゃあ荷物持って行ってくれる? どうせサラは自分のワイバーン使うんでしょ? そっちの方が早いと思うからプロジェクターの準備とかしておいて」

「了解しました」


サラに荷物を渡し、下の玄関に向かう。

玄関には既に魔王専用のワイバーンが待機しており、ゴテゴテの装飾を付けている。

これを付けたまま飛ぶのはなかなか辛そうだが、代々魔王はこの装飾をワイバーンに付けて移動するという習わしがある。このワイバーンには可哀想だが、この子に乗らないとサラに怒られてしまう。


「毎回ごめんね……。今回は割と近場だから頑張って」


私が頭を撫でながらお願いすると、憂鬱そうな鳴き声でワイバーンが返事をする。

この子も大変なんだろうなぁ……。このワイバーンから私と似たようなものを感じた。

そんな事を考えながらワイバーンにまたがる。


「じゃあお願いね」


その掛け声と共に、ワイバーンが大空へと飛び立った。

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