第5話 嫁さんの休日 Day2
昨日は嫁さんと映画を見に行ったり、買い物をしたりと久しぶりに充実した休日だった。別に普段の休日がつまらないと言うわけでは無いが、付き合い始めた頃の新鮮さが消えてしまっていたのは否めない。
そんな事を思いながら迎えた次の朝。
僕は普段、クラリスより早起きをする。顔を洗い、歯磨きなどを済ませて朝ごはんを作る為だ。朝食が出来たらクラリスを起こして一緒にご飯を食べる。これが基本的な朝の流れだ。
今日もそのルーティーン通りに事が進むと思ったが、そうはいかなかった。なぜか?それは現段階ではどう足掻いても身動きが取れないからだ。手足は完全に拘束されている。
しかし、なぜ僕の身にそんな事が起きているのか。その答えは至ってシンプルだ。
昨日の夜を思い出す。ホラー映画のせいですっかり怯えきったクラリスは、トイレも1人で行けない状態にまでなっていた。魔王のクセにかわい過ぎる。可愛いお嫁さんが、一緒の布団で寝たいと甘えて来て断る理由など当然無い。愛しの嫁さんに抱きつかれて寝るという、幸せでいっぱいなひと時を味わった。
これを踏まえた上で、今僕の身に何が起こっているのか思い出してみよう。今僕は手足を完全に拘束されている。
Q:何によって?
A:クラリスの手足で。
つまりそういう事だ。僕は今クラリスにガッツリホールドされてしまっている。起こすにもまだ早いので起こせないし、とても幸せそうな顔をして寝ているのでそれを眺めていたい気持ちもある。それに嫁さんの柔らかい双球も当たっている。ここはユートピアか。
僕はこんなユートピアを失ってまで空腹を満たしたくない。こんなユートピアを失ってまでルーティーン通りに生活したくない。
そんな訳で嫁さんの寝顔を間近で堪能する。
「……ロッゾォ……むにゃむにゃ……」
時折寝言で僕の名前も呼ぶ。幸せ過ぎて死にそうですハイ。
こうして30分程クラリスの寝顔と寝言と双球を堪能したが、ここで一つ問題が発生した。
尿意だ。
これには僕も逆らえない。
ここで出してしまうと畳が痛むし、布団も洗濯しなくてはならない。更にクラリスにも被害が及んでしまう。
仕方が無いので渋々クラリスを起こそうとするが、当然の事ながら今の僕は手足を拘束されているので身動きが取れない。
自分1人の力ではどうにもならないのでクラリスに声を掛ける。朝と言ってもまだ早いので、少し大きめの声でクラリスを起こす。
「クラリス、起きて。トイレ行きたい」
「……ふにゅぅ……もうちょっとだけ……」
そう言ってクラリスは開き掛けた目をまた閉じる。
「クラリスさん!? ホント起きて! 僕おもらししちゃうよ!?」
「……もう少しだけぇ……」
「おーい! マジで出ちゃうよ!? いいの!?」
「……ん、んぅ……うるさいなぁ……起きれば良いんでしょ? ……起きれば……」
そう言ってクラリスは拘束を緩めてくれる。
「ありがとう! 起こしちゃってごめん!」
クラリスに謝ってトイレへと猛ダッシュする。
「…………ふぃ~スッキリした……」
溜まっていた尿を放出しホッコリしていると、クラリスがトイレにやって来た。
「……ふぁぁぁ……おはようロッゾ……」
「おはようクラリス。さっきは急に起こしてごめんね?」
「……トイレでしょ? 抱き着いてた私も悪いし気にしなくて良いわよ」
「ありがとう。まだご飯作ってないけどもう少し寝る?」
「……目が覚めてきたから大丈夫。それより折角だから料理教えてくれない?私もマトモなご飯が作れるようになりたいのよ」
「別にいいよ。でも急にどうしたの? てっきり料理は捨てたと思ってたよ」
「私も捨てようかと思ったけど、お嫁さんが料理出来ないってのはちょっとアレじゃない……。だから……ね?」
「なるほどね。でも僕は気にしないよ? まぁ周りの目とかあるかも知れないけど、職場とかじゃ結婚してない事になってるんでしょ? まぁやりたいのなら止めないけど。まずは簡単なのからやろうか」
「うん、ありがとう」
クラリスとリビングのキッチンへ向かい、食材を冷蔵庫から取り出す。朝食はいつも簡単な物で済ませているので、練習には持ってこいだろう。
「クラリスってどこら辺まで料理出来たっけ?」
「フライパンで何かを炒めるぐらいなら出来るわよ」
「了解。じゃあ朝食に使うウィンナーをフライパンで焼いてくれる?」
「分かったわ」
そう言ってクラリスがフライパンにそのままウィンナーを入れようとする。
「クラリス!? ちょぉっと待ったぁ!」
「……ッ!? ビックリしたぁ。どうしたの急に? 私なんかまずい事した?」
「まずい事しようとしてたよ。クラリスって初歩の初歩でミスるレベルだったのね……。フライパンは油を引いてから加熱するのが普通なんだよ。そしてフライパンが熱くなってからウィンナーを投入するの。クラリスは一気にやろうとしてたでしょ?正しい手順は僕が教えてあげるから、その通りにやってみて」
「わ、分かったわ。頑張ってみる」
クラリスは悪戦苦闘しながらも、ウィンナーを焼いたりキャベツを切ったりして朝食を作った。僕が色々と手伝いはしたが、ほとんどクラリスの力で作ったので本人も満足している。これでクラリスにも少しは自信が付いただろう。個人的にはメシマズ嫁属性というのも悪くは無いが、本人が直したいと言っているんだ。僕も惜しみなく協力しよう。
それに料理が出来るに越した事は無い。クラリスと夜戦をする前に、わざわざ朝ごはんを作り置きにする必要も無くなるので助かる。ウチの嫁さんはどんどん完璧なお嫁さんに近づいてくなぁ……。
朝食の洗い物が終わったら、今日も貴重な休日が始まる。
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