第19話 社畜代表の平日 その5

メロンを食べ終わって十数分、魔王の間がノックされ追加の仕事が大量にやって来た。まあ予想はしていたことだが、ここまで大量の仕事を持ってこられると流石に白目をむきたくなる。どうやらこの悪魔社会に休みの2文字は無いようだ。コイツら鬼だね。いや悪魔か。

そんなくだらない事を考えながらも私は早速仕事に手をつけ始める。……と言ってもペースは午前よりも格段に下がってしまい、このままのペースでは定時帰りが危うくなってくるレベルで遅い。なにぶん午前中にかなり働いたのでやる気が削がれてしまっているのだ。テキパキ仕事を処理出来なくても仕方が無い事だと思う。

仕方無くと行った感じのスローペースで進めるが仕事の量は一向に減らず、どう考えても残業ルート確定な流れだ。とりあえずこのままだらけ続けるのはどう考えてもまずい。どうにかしてやる気を取り戻さなければ……。

そうして数分考えた結果もう少し休憩をすることにした。私は基本短期決戦型なので16時ごろから追い込みをかければ定時には帰れると思う。ということで、アロマキャンドルの香りを嗅ぎながら30分弱ゆったりする。

目を瞑ると眠ってしまいそうな程いい香りで、さすがロッゾの選んできたアロマキャンドルだと思った。魔王の間に備え付けてあった紅茶を入れ、背もたれがふかふかの椅子に深く腰掛けながらゆっくりと味わう。なかなかいい紅茶で、深いコクと味わいが出ている。この紅茶いくらしたんだろう?

休憩を始めて10分くらい経つが、平日でこんなにゆっくり過ごしたのはいつ以来だろう。今日も早く帰ってロッゾに癒されたいなぁ……。

休憩を始めてから25分ほど経ったので仕事を再開する。十分に英気を養ったし、早くロッゾに癒されたいという強い願望のおかげもあって仕事が面白いように進む。

書類を20枚、30枚と続けて処理することおよそ1時間。ほとんど定時と同じ時間に仕事を終わらせる事が出来た。我ながらグッジョブ。

私が荷物をまとめて帰る支度をしていると、ドアをノックする音がしてサラが入ってくる。


「魔王様、失礼します。定時になりましたが仕事は……どうやら終わっているようですね」

「ええ。資料なら机の上に纏めておいたから今日は先に帰らせてもらうわ。……あ、そういえば飲みに行く日の事なんだけど、明日の夜にでも私の家でどう? 今週の金曜は結婚記念日だから無理だし」

「分かりました。それではまた明日の勤務終了後に」

「りょーかい。ロッゾにも伝えとくわ」

「よろしくお願い致します」

「それじゃあお疲れ様」

「お疲れ様でした」


サラと明日の飲みに行く日の日程を決め、この忌まわしき魔王の間を出る。重たい装飾を外し私服に着替え、魔王城を出ていつものワイバーンを召喚する。


「おまたせ。早くロッゾに癒されたいからなるべく快速でお願い」


ワイバーンが頷き、私を乗せて上空に飛び上がる。

普段はそこまで速いはないのだが、今回は私の要望に答えて全速力で飛んでくれた。1番速いワイバーンとまでは行かないが普段よりは格段に速く、あと2分もすれば家に着くであろう速度だ。

そのまま順調に森の上空を抜け、あっという間に家へと到着した。かなりの速さだったので化粧は完全に崩れているだろう。以前はロッゾに引かれるレベルで崩れていたが、今回はどうなんだろう。

鍵を開けると丁度ロッゾが洗濯物を取り込んでいるところで、こちらに気がつき目が合うと一瞬固まった。


「ただいまロッゾ」

「……え、あぁクラリスか。一瞬真っ正面から不法侵入されたのかと思って焦ったよ」

「そんなに崩れてるの?」

「うん、結構。クラリスは元の顔がいいんだから薄化粧の方がいいよ?」

「そ、そうかしら……?」

「うん、自信持って。それに厚化粧すると肌荒れもしちゃうからね」

「それもそうね。ロッゾのお墨付きだし今度から薄化粧にしようかしら」

「それがいいよ。ご飯できてるから早めにメイク落としてきちゃってね」

「りょーかい」


そう返事をして洗面所に向かい、手早くメイクを落とす。鏡を見た時にゾンビみたいなメイクをした私が映っていたのはここだけの秘密だ。そのまま手を洗ってリビングへと移動をする。

今日はどんなご飯が私を待っているのだろうか。

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