第18話 社畜代表の平日 その4

ワイバーンが死にそうな顔をしているが、そんな事はお構いなしに私は魔王の間へと急ぐ。お腹空いた。早くお弁当食べたい。その一心でエレベーターを使わずに、重い装飾を着けながら階段を全速力で駆け上がる。

サラに「みっともないからお止めください!」と怒鳴りながら止められたが、誰も今の私を止める事は出来ない。

魔王の間に着くと机には予想通りというかなんというか、大量の書類が乗っけてあった。


「……はぁ。まあこの量なら定時には帰れそうね」


どうせ15時頃にまた追加の仕事が待っているのだろう。昨日みたいにゆっくりご飯食べたいなぁ……。

遠い目をしながら机の隅を見ると、書類の山の隣に見覚えのある小袋が置いてあるのに気が付く。


「ん?これはもしや……」


袋を開けると、中からアロマキャンドルとメッセージカードが入っていた。メッセージカードには「商店街を回ってる時に良い感じのキャンドルを見つけたから買ってきたよ。少しでも仕事の疲れが和らげば良いな。お仕事頑張ってね」と書いてあった。差出人の名前は書いていなかったが、よく見る小袋だったので恐らくロッゾだろう。ロッゾからの差し入れがある時は大抵この小袋に入って私の元に届く。

それにしても最近はロッゾの差し入れが多いなぁ。自宅から魔王城まではそこそこ距離がある筈なのに、わざわざ私の為に頑張って来てくれるの正直はかなり嬉しい。家に帰ったらお礼言っとこ。

書類を一旦どかし、ロッゾがくれたアロマキャンドルに早速火をつける。少しするとほのかにラベンダーの香りが漂って、更に時間が経過すると魔王の間がラベンダーの香りでいっぱいになる。


「さて、さっさとご飯食べちゃいましょうか」


そう言いながらロッゾに渡されたお弁当を開けると、中には朝のわかめご飯と小さめのコロッケ。そしてキャベツの千切りが少しと卵焼きが2つ入っていた。


「それじゃあ……いただきます」


手を合わせて食事前の挨拶をし、キャベツから食べ始める。キャベツにはシーザーサラダドレッシングがかけてあり、いつも家で食べる味と変わらず美味しい。因みにこのキャベツはロッゾが育てたキャベツだ。品種改良を色々してあるって以前ロッゾが話していたけど、正直どんな品種改良を施したのかはあんまり覚えてない。今度もう一回教えてもらお。

そんな事を考えながらコロッケに箸をつける。私はソースをかけない派なので、そのままの状態で半分くらいに分けて口に運ぶ。コロッケの中にはコーンやニンジンが入っていて、夏を感じさせる野菜コロッケになっていた。因みにこのコーンとニンジンもロッゾが品種改良を施して作った野菜だ。

その後わかめご飯や卵焼きを食べ、だいたい15分程で完食した。


「そろそろ仕事始めますか……」


どかした資料の山を元に戻し再び仕事に戻る。

仕事を再開して数分後、ドアがノックされサラが部屋に入ってくる。


「魔王様、失礼します。……本当に珍しいですね。魔王様が自主的に仕事をなさるなんて……」

「前も言ったけど私やる時はちゃんとやるからね? サラと一緒に居ると怠ける事が多いだけよ」

「私と一緒にいる時でもちゃんと仕事してください。ですが自主的に仕事をなさる事は悪い事ではないのでこの調子でお願い致します」

「分かってるわよ」

「私は一時的に事務の方に戻りますので、どうかサボらないようにお願い致します」

「はいはい」

「はいは一回で結構です。それでは失礼しました」


そう言い残してサラが魔王の間から出て行く。

そのまま仕事を続ける事約45分、最初に比べると半分程資料が片付いた。


「今日も定時に帰れそうかな?」


ロッゾの待つ家に思いを馳せながら、再び淡々と仕事をこなしていく。

ロッゾ曰く人間もそうらしが、悪魔は一つの事に集中すると時間が経つのを早く感じる事が多い。私も例に漏れず、体感では30分程度だったが気付けばもう1時間経過していた。


「ふぅ……。今日はいつもより時間が経つのを早く感じるわね。仕事も片付いたし、ここらで一服でもしましょうか」


ロッゾがお弁当に入れておいてくれたデザートのメロンを取り出し、一緒に入っていた爪楊枝つまようじで一切れだけ刺して食べる。

丁度いい頃合いのメロンなのか、噛む度に甘い果汁が口の中に広がりとても美味しい。


「もう少しで追加の仕事がくるのかしらねぇ……」


アロマキャンドルのリラックス効果もあってか、そんな事をボケーっと考えながらもう一切れメロンを食べる。

そんな感じで、私の休憩は終わっていく。

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