第17話 社畜代表の平日 その3

ゴテゴテの装飾を付けた魔王専用のワイバーンに乗って7分。私は会議の会場に到着した。さっきは憂鬱そうな顔をしていたワイバーンだが、私と同じでやる時はやるタイプの様だ。重い装飾を付けているのに、私の通勤用ワイバーンより1分かった程度の差しかなかった。


「お疲れ様。そんなに遅くはならないと思うけど帰りも頼むわね」


そう言って頭を撫でてあげ、会議が行われる部屋へと向かう。

会議室では既にサラがプロジェクターなどの準備を終えており、あとは各支部のお偉いさん方を待つだけだ。まぁ1番偉いのは私なんだけど。


「魔王様、準備が整いました」

「分かったわ、ありがとう。資料も出しておいてくれる?」

「了解しました。……どうぞ」

「ありがとう」


サラに渡された資料にもう一度目を通し、朝から何も飲んでいなかったので近くに用意されていた水を飲む。


「あ”〜、生き返るぅ……」

「お止め下さい魔王様、だらしないですよ。そういうのはプライベートの方でお願いします」

「はいはい。……そろそろメンツが揃いそうね」

「そうですね。あとは先代様がご到着されるのを待つだけですが……」

「相変わらずあのおばあちゃんはマイペースね……」

「……先代様の自分勝手さには毎回手を焼いてますね……。どうか魔王様は先代様の様にならないようにお気を付ける様にお願いします……」

「アンタが仕事中に死んだ目してるの久々に見たわ。そんなに振り回されてたのね……」


基本的にサラは仕事中に自分の感情をあまり表に出さない。そんなお堅いサラが死んだ目をするなんて、どれだけ先代にサラが振り回されたのかが分かると思う。先代恐るべし。

15分程すると先代が遅れてアイスを食べながらやってくる。割と大事な会議なのにも関わらずアイスを食べながら遅れてくる図太すぎるその精神。いつもより先代が着くのは早かったが、遅刻するのが当たり前になってしまうのはどうかと思う。私はこんな風にならないように気を付けよ……老害とかいうあだ名ついた日には泣くわよ私。多分家に引きこもる。

因みに先代の側近の目はサラと同じように死んでいた。ご愁傷さまです。

どうやら先代が最期だったらしく、予定より少し遅れて会議が開始される。

会議の内容は至ってシンプルで、担当地域内での経済の状況や作物の収穫数。治安維持が出来ているかなどを報告し、問題がある様ならその対策を考えるという内容になっている。

余談だが、会議は通常13時。長い時には15時に終わる事が多く、毎回お昼ご飯が抜きになる事が多い。更に魔王城に帰ると仕事が追加で来ているので、更に仕事に追われることになる。この会社は地獄か。


「えー、それでは早速ですが定期報告から始めて行こうと思います。まずは魔王様のいらっしゃる王都からお願い致します」

「了解したわ。……まずは経済状況から。スクリーンを見て頂戴。これは3ヶ月前の経済状況と現在の経済状況を比較したグラフよ。

見てわかる通り、前回の政策が功を成したのか経済状況が良くなりつつあるわ。王都は継続して観光に力を入れ、この好景気を維持出来るようにするわ。……次に作物の収穫数。またスクリーンを見て。今月は昨年度の収穫数に比べて比較的多くなっていて、多少の災害に見舞われたものの──」


そのまま続けて治安維持の現状について報告し、およそ10程度で私の話す事は全て話した。色々ツッコまれた部分はあるがそこまでの量では無く、私の担当する王都の定期報告は無事に終わった。後は他の5つの地域の定期報告を対策を立てつつ聞いて、魔界全体の取り組み方針等を固めて解散という流れとなる。今回は割とスムーズな滑り出しが出来たので早く終わりそうだ。

そんな事考えている私を置いて会議はどんどん進んで行く。前回治安面に問題のあった田舎の地域も改善がされている様で、総犯罪数がかなり減ったとの報告を受けて一安心した。経済面も特に大きな問題は無いようで、かなり円滑に経済が回っている事をグラフのデータが物語っていた。作物の収穫数はそこまでよろしく無く、昨年度のこの時期に比べると全体的に少し物足りなく感じる。特に対策という対策は無いのだが、もう少し畑を確保する事を提案されたので後日農業課の方に回す事になった。

なんやかんやで13時には会議が終わり、次回の会議の日程などを聞かされて解散となる。因みに先代は何一つアドバイスもしないで、ただただ考えも無しに頷いているだけだった。

もう先代無理に連れてくる必要無くない?

そんなド正論な疑問を抱きつつ、ロッゾのお弁当を早く食べたいという一心で休憩していたワイバーンを叩き起す。またワイバーンは憂鬱そうな顔をしていたのだがそんな事はお構い無し。

全速力で飛んでくれと無慈悲なお願いをしながら、今日のお弁当の中身に思いを馳せるのであった。

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