第8話 ロッゾの平日

癒しに満ちた休日が終わり、クラリスにとっては地獄の平日が始まる。クラリスを優しく揺さぶると、クラリスは布団を被りダンゴムシみたいに丸まった。かわいい。

更に優しく揺さぶるともっと丸くなる。ホントかわいい。

いつまでもクラリスの行動を愛でていたい衝動に駆けられるが、今は心を鬼にして布団を剥がしに行く。


「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


布団を掴みクラリスごとひっくり返す。

が、いがいに重くて腰にくる。頼むからもう少し減量して。そのうち僕の腰が死ぬ……。

ダンゴムシと化したクラリスがひっくり返り、地面を求めて空中で足をバタバタ動かす。やっぱりかわいい。

一定時間足をバタバタさせると足の動きはピタリと止み、クラリスは横に倒れ定位置に戻る。


「往生際が悪いですね魔王様。布団引っぺがしちゃってもいいのかなぁ……?」


反応は無い。ならば実力行使だ。

布団を引っぺがそうと思い、クラリスに占拠されていない布団の角を掴む。

勢いを付けて布団の角を引っ張ると、必死に布団を掴むクラリスが見える。


「観念して会社行けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

「絶対嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


人間と魔王の醜い争い……もといじゃれ合いは、止まることを知らずに加速する。


「このままだと遅刻するよ!? いいの!?」

「魔王が遅刻とか威厳無くなっちゃうから休む!! やったねッ!!」

「やったねじゃないよ!? クラリスが働かなきゃ収入無くなるじゃん!? お願いだから仕事してッ!!」

「ロッゾが働けば問題無いじゃない!! ハイ解決ぅ!!」

「再就職めんどくさいからやだぁ!! お願いだから仕事してよぉ!!」


こんな事を毎日やっている。バカだね。バカップルだね。しかも仕事に遅れないよう早めにやってる。でもこれを毎朝やらないと、どうも1日の調子が出ないからしょうがない。


「ふぅ、そろそろご飯食べよっか……」

「そうね……」


ちょっと虚しい気持ちになりながらもリビングへと移動する。ちょっと虚しい気持ちって言うのは、簡単に言えば賢者タイムみたいな感じだ。なんとなく分かるでしょ?

因みに今日の朝食はサンドイッチだ。

二人共サンドイッチを食べ終わると、クラリスは出勤の支度をし始める。その間僕は皿洗いをし、食器を全て洗い終わった後にはクラリスの支度は終わっていた。


「じゃあ行ってくるわね。出来るだけ早く帰れるように頑張るわ」

「あんまり無茶しないでね? いってらっしゃい」


そんな会話をした後クラリスが出勤した。


「……さて、畑に水やりますか」


僕は畑の方へ向かいホースを掴む。そして、最近やたらと育っているほうれん草に水をやる。

トマトの種植えは終わったので、後はキャベツの回りに生えてきた雑草を刈るだけだ。クラリスの増えた体重のせいで、少し痛む腰を抑えながら雑草を引っこ抜く。

それから1時間程たったぐらいだろうか。炎天下の中続いた雑草抜きはようやく終わりを告げた。


「ふぅ~。腰痛いなぁ……」


おじいちゃんの様に腰を叩きながら家へと戻る。

家に着いて今日の昼飯を決めようと思い冷蔵庫の中を見るものの、そこには一昨日まで沢山あった筈の食材が半分も残っていなかった。多分クラリスが料理を作った時に分量を間違えたのが原因だろう。


「買いに行くか……」


そういうわけで俺は食料を買いに商店街へと向かう。





「1週間ぶりか……」


魚屋を見上げ、そんな事を口からこぼす。


「おっ! ロッゾさんじゃないっすか!?」


俺に話しかけて来たのはここのバイトのアイク。経緯が色々とあって仲良くなった。出会いを求めている悲しいヤツだ。


「よう。久しぶりだなアイク」

「全く、ここ1週間ぐらい顔見てなかったから心配したっすよ。奥さんとは上手くやってますか?」

「そりゃもちろん。朝からじゃれあって英気を養ってきたよ」

「相変わらずアツアツっすねぇ。こっちはろくな出会いすら無いっすよ。コンパ回りまくるけどみんな好みの女じゃ無いんすよね。ホントに出会いが欲しいっす……」

「ははは。正直いい人と出会えるなんて運だからなぁ……。アイクも粘り強く頑張れよ」

「ハイっす! 話は変わりますけど、今日はサンマが新鮮っすよ。今晩のメインにどうです?」

「そうだなぁ……それじゃあ2匹貰おうかな」

「毎度! 他にも新鮮な魚取り揃えてるんで見てって下さいな」

「あいよ。アイクも仕事頑張れよ」

「ハイっす」


アイクに勧められたサンマを2匹取り、他にサケも2匹買い物カゴに入れた。

会計を済ましにレジに行くとアイクが待っており、いつも通り少し値引きをして貰う。


「いつも悪ぃな。助かってるぜ」

「いえいえ、こっちこそいつも来て貰って助かってますよ。これからもご贔屓にどうぞ」

「おう。また来るよ」

「毎度、ありがとうございましたぁー!」


アイクと別れを告げ、僕は昼食を食べるべく家へと向かった。

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