第9話 ロッゾの平日 その2

家に帰って昼食を済ませ皿洗いが終わった僕は、特にすることが何も無いのでニートよろしくソファーでくつろいでいた。時間の流れがとてもゆっくりに感じて、気付けば俺は睡魔に襲われ意識を失っていく。そして──


「ん……。…………今何時だ?」


時計を見ると時刻は6時を周っていた。もう少しするとクラリスが帰ってくる時間だ。


「やっば寝すぎた!! そろそろご飯作らなきゃ!!」


帰って来て飯が無いと知ったクラリスは普通にぶっ倒れ兼ねないので、僕は焦ってご飯を作り始める。今日の献立は昼に買った魚とご飯。そして味噌汁といった至ってシンプルな献立だ。たまには魔界の食材を使ってクラリスの故郷の料理も作ってあげたいのだが、クラリス自身が人間界の料理を気に入ってる様なので作らなくていいらしい。確かに人間界の料理に慣れると魔界の料理はゲテモノの集合体に見えるかもしれないし、それなら案外普通の事だと思えてくる。

そんな事を考えつつ料理を作り、クラリスの帰りを待つ。数十分するとクラリスが家のドアを開ける。


「ただいまー……。月曜日なんて消滅しちゃえ」

「おかえりクラリス。今日も結構疲れたみたいだね。先にご飯にする? それともお風呂にする?」

「んー……。じゃあロッゾで」

「冗談だとは思うけどホントに僕を食べるつもりならもう少し後にしてね。……と言うか月曜日からヤると明日大変だよ?」

「そ、そんな事ぐらい分かってるわよ。私だって性欲魔神じゃないし……。でもマッサージはお願い。今の生きがいはロッゾのマッサージとご飯とお風呂ぐらいよ。……あとエッチも」

「十分性欲魔神しちゃってると思うのは僕だけかな? まぁ僕もクラリスとのエッチは好きだけど」

「……バカぁ……」

「さて、イチャイチャするのも程々にしてご飯にしよっか」

「そうね、私もうお腹ペコペコ。今日のご飯は何?」

「今日のご飯はサンマの塩焼きだよ。行きつけの店でサンマが安くてね」

「そうだったのね。まぁいいわ、さっさと食べちゃいましょ」

「そうだね」


クラリスのカバンなどを片付けリビングへと移動する。リビングには既に料理が置いてあるのですぐに食べれるだろう。

クラリスと食事を済ませたらおつまみと酒を出し、クラリスの愚痴を聞きながら皿洗いを始める。


「ねぇ、仕事めんどくさい〜。そろそろロッゾも働いてよぉ〜。私も仕事やめたぁーい。魔王だるい〜」

「頼みますよクラリスさん〜。僕を再び就職氷河期に放り込むの? クラリスさんはそんな鬼じゃないですよね? ね?」

「家でグータラしてるよりかはいい人生が送れると思うよ!」


クラリスはいい笑顔でサムズアップし就職活動を応援してくる。


「ん……? でもそれってクラリスにも当てはまるんじゃ……」

「……働きたくないです」

「知ってた。一服したらお風呂入っちゃってね。マッサージの時間減っちゃうし」

「分かったわ。着替えよろしくね」

「りょーかい」


クラリスが風呂場に向かい僕は着替えを持って行く。

数十分するとクラリスが風呂から上がってきた。


「お風呂出たよ〜」

「お、早かったね。僕も入って来ようかな」

「なるべく早くしてよね? マッサージの時間減っちゃうから……」

「善処はするよ」


クラリスにそう言って僕は風呂場へと向かう。

クラリスの残り湯を頂戴する……なんてアブノーマルな事はせずに普通に湯に浸かる。今日は気分がいいので思いっきり歌おう。


「とぅるるるるっるる~るるるるらりら〜」


上機嫌で最近流行りの歌を歌うと、風呂のくもりガラスのドアの向こうに人影が見えた。その人影はドアに張り付き聞き耳を立てている。クラリスだ。


「…………」


上機嫌で歌を歌っていた僕は急に黙り込み、クラリスが諦めて帰るのを待つ。いつもなら1分もすれば帰るが今日はやけに粘る。いつもより機嫌がいいと踏んでの粘りだろう。

仕方が無い。こうなったら奥の手だ……。


「クラリスさーん? 居るのはわかってますよぉ? 何しに来たんですかぁ?」

「ひゃっ!? い、いや別にそれといった用は無いわよ!? ちょ、ちょっと歯磨きしようかなぁって‼︎」

「ほほーん。じゃあクラリスは僕の歌を聴いてニヤニヤしていたわけじゃないと。ほーん」

「あ、あったり前よ‼︎ 私そんなに陰湿じゃないものね‼︎」

「そうですかそうですか。クラリスがしらを切り続けるなら今日のマッサージは無しかなぁー。明日大変だろうなぁー」

「え……マッサージ無しになっちゃうの……?」

「うん、クラリスがしらを切り続けるならだけどね」

「えぇ……そんなぁ〜……」


クラリスが涙声でドア越しに返してくる。


「まぁ今回はクラリスの可愛さに免じて許してあげるけど、もしも次やったら……分かるよね?」

「も、もちろん」

「前回もそのセリフ聞いた気がする」

「き、気の所為なんじゃない?」

「じゃあそういう事にしといてあげるよ」


そんな感じに、今日も1日の終わりに近付いていく。

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