第7話 嫁さんの休日 Day2 その3

お義母さんに案内されて僕はキッチンへ向かった。キッチンは僕の家とあまり変わらない設備で、使い方も同じ様だったので助かる。


「今日のメニューとかって決めてるんですか?」

「まだ決めてないわね。折角だから人間界の料理を食べてみたいんだけど、この材料で作れそう?」


そう言ってお義母さんが冷蔵庫の中身を見せてくれる。冷蔵庫にはタコ……の様な紫色のウネウネしたヤツと、キノコ……に渋い顔が付いている正体不明のナニカ。スライムの様なモノに動く卵など、食べ物かどうか疑ってしまう様な物がぎっしり詰まっていた。辛うじて多くの野菜は人間界で取れる物と一緒だったものの、それ以外は見た事も無い食材(?)なので恐らく僕の知りうる料理は作れない。


「え、えぇっと……これ食べ物ですか?」

「え? どこの家庭にも置いてある普通の食材なんだけど……もしかして見るの初めて?」

「は、はい。普段こんなにエグいモン食べてるんですね……」

「人間と悪魔じゃやっぱり色々違ってくるわね。食べられそうに無いなら無理はしなくていいわよ? 魔界の事を嫌いになって貰いたく無いし、お腹とか壊しちゃったら色々とマズイものね」

「すみません……でも、見た目を工夫出来れば食べられない事も無いので大丈夫です。調理方法教えて貰ってもいいですか?」

「分かったわ。私はスライムを調理するから、ロッゾ君はマンドラゴラをお願いね。肝心なマンドラゴラの調理法なんだけど、この子刃物を見ると叫ぶ習性があるの。私達は大丈夫だけど、人間の鼓膜じゃ破られて聞こえなくなっちゃうと思うから一番最初にこの子を調理してね。お湯に漬けて放置すると窒息死するから、その後にお湯から揚げてみじん切りにして。次に調理して貰いたいのはクラーケンなんだけど、これがまた特殊で──」



そんな感じで始まった魔界の食材調理法講座。特殊な手順は踏むが、基本的な調理方法は同じだったのであまり手間取ることは無かった。……うまく出来たかどうかは分からないが。

それに比べお義母さんはテキパキと調理を進めていた。途中後ろで物凄い断末魔が響いたが、僕は何が起きたか知らないし知りたくない。一つだけ分かるのは、振り返ったら後悔するという事だけだ。

とりあえず刻んで炒めたから何とか食べられる形にはなったもの、のあの見た目だ。味の方はどうなんだろう。悪い意味で気になって仕方が無い。

一応料理には見える奇怪なモノを皿に乗せて、キッチンからリビングのテーブルへと運ぶ。



リビングに着くと、クラリスとお義父さんが話をしていた。何やら盛り上がっていたが、ご飯が冷めてしまうので一応声を掛けることにする。


「お待たせしました。ご飯出来ましたよ」

「おぉ、なかなか美味そうじゃないか」

「ありがとうございます。初めてみる食材ばっかりで上手く出来てるか分からないですけど、お義母さんにも色々アドバイスを貰ったので多少なりともマシにはなったと思います」

「あ、そう言えばロッゾはこっちの食材見るの初めてだったわね……。凄い見た目してるけど食べられそう?」

「見た目は刻みまくってこんな感じになったから大丈夫そう。ホント凄い見た目だったけど美味しいのかな?」

「んー、多分普通の味ね。食感は全体的にグニグニしてるけど」

「グ、グニグニ?」

「そう、グニグニ。簡単に言えばグミみたいな感じかな? ある程度歯ごたえがある感じよ」

「なるほどね……。だいたいのイメージは付いたよ。あんまり放っておくとご飯も冷めちゃうし、食感を確かめる為にもそろそろ食べようか」

「そうね、そうしましょう。ところでお母さんは?」

「後処理があるらしいから、お義母さんはまだ台所にいるよ。そろそろ来ると思うけど、何してるんだろ……」


僕がそんなことを言うと、廊下から歩く音が聞こえてきた。噂をすればなんとやらだ。


「ごめんなさいね。食材から出た血の処理をしてたら遅くなっちゃったわ。なかなか面倒くさい血でね、そこら中にこびり付いちゃったのよ。オマケに酸性だし、このエプロンダメになっちゃったわ」


ホワッツ? 酸性の血? なんじゃそりゃ。と言うかそんなに血が出る調理方法だったのか……想像しただけで食欲が削られるね。


「それじゃあ食べましょうか。……いただきます」

「「「いただきます」」」


お義母さんの音頭で挨拶をし、まずは自分が作った料理に目を向ける。クラーケンの原型が分からなくなるほどみじん切りにし、仕上げにあんを掛けた料理だ。箸でクラーケンの破片を摘むと、心なしかウネウネと動いている様に見える。これ食っても大丈夫なモンなの……?

ウネウネ動いている様に見えるクラーケンの破片を恐る恐る口に運ぶ。噛むとクラリスの言った通りグニグニしていて、本当にグミの様な食感だった。まぁイカ自体グニグニした食感だが。味も思っていたより普通で、イカとあまり変わらない味をしていた。

次にマンドラゴラを食べてみる。薄すくスライスされてはいるが、やたらと弾力性がありなかなか噛みきれない。


「ロッゾ、大丈夫?」

「味は良いんだけど食べるのは大変だね。なかなか噛みきれなくて……」

「まぁ、魔界の食材はみんな強靱だからね。頑張って」

「頑張るよ……」


この後、食事が終わるまでに相当な時間を有した事は言うまでもないだろう。

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