第31話 結婚記念日 その7

コーヒーカップの場所までは丁度5分ほどで着き、予想通り人もそれほど並んでいなかった。

3分程待つと前の人達がコーヒーカップから降り、園内の人に僕達が案内された。

コーヒーカップの中は昔の記憶通りに微妙な広さで、僕とクラリスが座ってもまだあと1人か2人は座れそうなくらいの広さだ。

席に着くと軽い説明が一通りされ、持ってきた荷物を中央のハンドルの下へと降ろす。クラリスも僕同様に荷物を下に降ろし、ウキウキしながらハンドルを握ってとんでもないことを言い出した。


「さーて、ぶん回すわよロッゾ!」

「うん…………って…………えぇ、ちょっ、クラリス⁉ 手加減してくれるんじゃなかったの⁉」

「え? 誰も手加減するだなんて言ってないわよ?」

「え?」

「え?」


お互いに勘違いしていた為一瞬フリーズしてしまう。

よし、よく思い出してみるんだ僕。…………うん、手加減してくれるなんてクラリス一言も言ってなかったね。完全に僕の思い込みじゃんこれ。


「…………あのぉクラリスさん? 言われてみれば僕が勝手に自己完結してただけでした…………お騒がせして申し訳ない…………」

「なんだ、そういうことね。でも安心してロッゾ、私だってそんなに馬鹿じゃないわ。少しぐらいは手加減してあげるわよ」

「それでも少しだけなんだね」

「だってせっかくの結婚記念日よ? 楽しまないと損じゃない」

「まぁそれもそうだね。…………よし、僕も男だ。どんなに回されても耐えきってやるぞ!!」

「その意気よロッゾ!!」


クラリスに励まされるのとほぼ同時にコーヒーカップが動き出す。

コーヒーカップはゆっくりと加速していき、それに合わせるかのようにクラリスもハンドルをゆっくりとまわしていく。

次第に僕達の乗っているコーヒーカップも回りだし、しまいにはかなりの速度で加速し周りの景色が見えない程になる。


「ク、クラリス回しすぎ……」

「あはははは、たーのしぃー!! どんどん回すわよー!!」


どうやらクラリスには僕の声が全くと言っていいほど届いていないようで、やたらとテンションの高いままコーヒーカップを回し続ける。

降りた時に吐かなきゃいいなぁ……。

そんなことを考えながら、僕は地獄の3分間を味わった。

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