第21話 社畜代表の平日 その7

しばらくしてお風呂から出ると、タオルと着替えを洗濯かごの中に入れているロッゾと目が合った。


「あ、クラリス。今日はあがるの早いんだね」

「…………いやん。ロッゾのエッチ」

「え、あぁ、うん。ごめん」

「……冗談よ冗談。反応薄いわね」

「ちょっと考えごとしてたからね。僕もさっさとお風呂入っちゃおうかな」

「そうしてもらえると助かるわ。今日は太もものマッサージもしてもらう予定だから長くなりそうだしね」

「りょーかい。悪いけど僕が出るまで布団でごろごろでもしながら時間潰しててくれる? なるべく早めに出るようにするから」

「そんなに急がなくてもいいわよ。でも、あんまり遅いと寝ちゃってるかもしれないからその時は起こしてね」

「おっけ」


そう言ってロッゾが服を脱ごうとする……が私の方を見てピタリとその動きを止める。


「どうしたのロッゾ?」

「え、えっとねクラリス。僕服を脱ぎたいんだけど……」

「脱げばいいじゃない」

「いや、クラリスにじぃっと見つめられたままだと凄く脱ぎにくいんだよね……。なんか恥ずかしいというか、なんというか……」

「私の裸はじっくり見たのに?」

「クラリスほどマジマジと見つめてはないよ⁉︎」


ロッゾが慌てながら否定する。

これ以上ロッゾをイジるのはかわいそうなので今日はこの辺にしておこう。拗ねてマッサージしてもらえなくなるのは困るしね。


「ごめんねロッゾ。少しからかいたかっただけよ」

「なんだ、そういう事ね。急にエッチとか言い出すからびっくりしたよ」

「そういう事よ。私は上でのんびりしてるからロッゾはごゆっくりどうぞ」

「そうさせて貰うね」


ロッゾとそんなやりとりをしてから二階に上がり、敷かれていた布団の上でごろごろして時間を潰す。

そのまま数十分程時間を潰すとロッゾが風呂場から出てきた。


「お待たせ。ちょっと遅くなっちゃった」

「そんなに待ってないから大丈夫よ」

「よかった。じゃあマッサージ始めよっか。特に要望がないなら肩からやるけどどうする?」

「全部ロッゾに任せるわ」

「おっけー。それじゃあうつ伏せになって」


ロッゾの指示通りにうつ伏せになり、枕に顔を押し付けて全身の力を抜く。

最初に軽く指圧をされ、そこから適度な力加減で肩を揉まれる。


「昨日もマッサージしたはずなのにかなり凝ってるよ。クラリスって肉体労働系の仕事じゃないよね? 何したらこんなに肩凝るの?」

「過度なデスクワークかしら」

「いつもご苦労様です」

「ホント大変なんだからしっかり労ってよね」

「はっ、魔王様のおおせのままに……なんてね」

「フフッ……いいぞぉ! もっと強く揉み解すのじゃぁ!」


お互いに変なテンションになりながらロッゾが肩を10分程ほぐしてくれた。おかげで肩はだいぶ軽くなり、また明日も仕事を頑張れそうな気持ちが湧いてくる。


「さっきまでの肩凝りが嘘だったみたいね。流石ロッゾ。次は腰のマッサージを頼めるかしら?」

「お安い御用ですよ、魔王様」


そう言うと、ロッゾ腰の方に手をかけ少し強めに揉み解す。


「あ”ぁ”……。効くぅ……」

「凄い声出すね……。もう少し強くする?」

「うん、お願い」


ロッゾはさらに力を加えて腰を揉む。5分程したら仕上げに少し強めに指圧を行い、次にもものマッサージに移る。先程お風呂場でした要望に答えてくれたのだ。


「どう、クラリス? もものマッサージは初めてなんだけど、いい感じにできてるかなぁ?」

「サイコーよロッゾ。あ”ぁ”……気持ちいぃ…………」

「それは良かった。こっちは軽めでいい? なんせ何をどうしたらいいかあんまり掴めてないからさ」

「大丈夫よ。数分間太もも周りを解してくれるだけでいいから」

「りょーかい」


ロッゾが注文通りに太ももを適度な力で軽く解す。今日は昼に全力疾走をしたので、太ももがパンパンに張ってしまっていたのだ。まぁ、しばらく運動してなかった人が階段で全力疾走すれば誰でもこうなると思う。決して私が重いから膝やももに掛かる負担が多くなった訳じゃない。絶対そういう訳じゃない。私はそう信じてる。

……なんてくだらない事を考えていたらマッサージが終わる。

ロッゾのお陰ですっかり今日の疲労は取れた。さすが私が惚れた夫。


「こんな感じで大丈夫かな?」

「えぇ、十分よ。これで明日も頑張れるかな?」

「クラリスの役に立てたなら良かったよ。明日もお仕事頑張ってね。おつまみ用意して待ってるから」

「マッサージも追加でお願い」

「お安い御用だよ。もう時間もいい頃だし、そろそろ寝よっか?」

「そうね、そうしましょう」

「それじゃあ電気消すね〜」


そう言ってロッゾが部屋の照明を落とす。

明日の仕事は少ないといいなぁ……。

そんな私の願望は、いつしか夢の微睡まどろみに飲み込まれていった。

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