第11話 クラリスの平日 その2

昼休憩も終わり、着々と仕事を進めてはや2時間。気づいたら時刻は午後3時を回っていた。色々と頑張った成果か、今日は定時で帰れそうなんじゃないかと思う程に仕事は減っていた。イケる! イケるぞ! 久々に長い時間ロッゾとイチャイチャできる!

そうやってモチベーションを高めていくと、誰かが魔王の間のドアを叩く。

私は何か嫌な予感がした。というか嫌な予感しかしない。ここのドアがノックされる時は大抵追加の仕事を持ってくる時だ。


「……どうぞ」


半ば諦めかけながらも入室を許可する。


「……失礼します。魔王様に差し入れだと言って怪しいフードの男がこれを持ってきたそうです。あまりにも怪しいので処分する方向だったのですが、一応魔王様に見せた方がいいとの判断でお持ちしました。中身は食べ物の様ですが、いかが致しましょうか」


そう言われて袋の中を覗いてみると、中にはプリンが入っていた。魔界の食べ物にこんな者は無いから怪しいんでしまうのも仕方が無い。


「大丈夫よ、多分私の知り合いだわ。ご苦労さま」

「そうですか、分かりました。それともう1つ……」

「ん、なによ?」

「追加のお仕事です」


そう言うと私の机に新しい書類が転送される。


「それでは失礼しました」


今度は返事も出来ないまま、私は白目をひん剥いて椅子の背もたれにぐでーっともたれた。


「コノカイシャヤバイ。ワタシ、シヌ」


そんな愚痴を零しても私の仕事は1つも減らない。ホントに潰れないかなこのブラック企業……。

ブツブツと呪文の様に何かを唱えて仕事を進めて体感30分。ふと時計を見てみると、仕事を初めてから既に2時間経過していた。


「えっ、こんなに時間経ってたの……? これからはなんかブツブツ言いながら仕事しようかしら……」


思わぬ仕事の進め方を見つけてテンションが上がっていた為に気が付かなかったが、もう少しで定例会議の時間になる。

早いところ支度をして会議をちゃっちゃと進めさせよう。今日は絶対に定時で帰るんだ。これはもう揺るがない。

会議に必要な資料を持ち、会議室に移動する。部下には早めに会議始めるから招集を頼んでおき、会議室に着くと全体の半分ぐらいは人が集まっていた。

私は1番デカい席に座ると資料をペラペラ捲り先に考えを纏めておく。「どうせここ突っ込まれるんだろうなー」とか「こんな事聞かれるよなー」とか。大体突っ込まれるところは分かっている。私は定時に帰りたいのだ。早く会議を始めたくて貧乏ゆすりをすると、なんかみんながビビって会議室に来てない連中に急いで連絡を取る。ありがたい。

しばらくするとバタバタと音がして、会議室に来ていなかった連中が遅れて到着した。


「それじゃあ始めましょうか」


私の音頭で会議が始まる。

会議は意外とスムーズに進み、これ以上誰も突っ込まなければもう少しで終わる。そんな所まで来た。

正直、「今日のご飯は何かなー」とか他のことを考えていて会議の内容は全く入ってない。会議終了まであと少しという所までボケーっとしていると──


「魔王様はどうお考えですか?」


そんな話題が急に振られてきた。


「え、えぇ? 私? ぅんーと……そうねぇ……」


不味い。非常に不味い。なんせコイツの話なんも聞いてないんだもん。どうしようどうしよう。聞いてませんでしたなんて側近に怒られて会議長引くだけだし、私の信頼もガタ落ちだ。一体どうすれば……。うーん…………ッ!! いい事考えた。コイツには悪いがなんとか誤魔化せる方法が一つだけある。これなら私の信頼と威厳も保てるし、会議も長引かなくて済むわ。後は本当に実行するかどうか。部下を売って威厳を保つというのは非常に心が痛む。本当にこんなことをしてもいいのかしら……? まぁ上司のフォローも仕事の内だからいっか。実行しよっと。


「ごめんなさいね。ゴチャゴチャしていて分かりづらかったわ。もう1回要点だけを纏めて話してもらえるかしら?」

「えっ!? あっ、ハイ……」


すごい困惑してる。そりゃそうだ。しっかり纏めてきたのに分かりづらいとか言われたら誰でも困惑する。普通に悪い気がしたから後でジュース奢っとこ……。

しょうもない魔王こと私はそんな事を考えながら、また会議をテキトーに聞き流していた。

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