続・僕は普通の高校生活を送りたかったのにMIKIが引っ掻き回して困っています

黒猫ポチ

第1話 8月1日(日) 第2部 スタート!

 僕は今、新千歳空港に向かう快速に乗っている。

 今頃、東京のテレビ局のスタジオでは『高校生クイズキング選手権』の本選が始まっている頃だ。そう思うと僕は悔しい気持ちで一杯だ。

 だが、美紀も間接的ではあるが「来年また頑張ればいい」と言っていたし、諦めたら終わりだ。次を目指して頑張ればいい。

 ところで、どうして僕は快速に、しかも一人で乗っているのかというと、昨夜、またまた膨大な数の着信とメールが入ったからだ。このパターンは二度目だから、既に想像がつくと思うけど・・・


 昨日の夕食の最中、僕のスマホはマナーモードにしたまま自分の部屋に置いてあった。しかも、夕食の後は姉さんや美紀と一緒にテレビを見ていたから、部屋に戻ったのは夜の9時頃だ。そして、スマホがいつの間にかバッテリー切れになっていたので充電を開始した所・・・メールが百件以上、さらに着信履歴がそれと同じ位あった。それらは全部同じ人物からである。

 そして、ほどなくして電話が入った。またもや同じ人物からだ。

 僕は恐る恐る着信ボタンを押した。

「・・・もしもし」

『おそーい!一体、どれだけ電話したらつながるのよ!!』

「勘弁して下さいよお。僕だってマナーモードにしていて別の部屋にいたら気付かないですよ」

『猛君の事情は知らないわよ!それより、レディーから電話させるなんて失礼極まりない事よ!反省しなさい!!』

「まあ、それについては謝ります・・・って、何でクリス先輩が僕に電話を掛けて来たんですかあ!?」

『・・・単刀直入に聞くけど、学校から連絡はあったの?』

「・・・ないです」

『そうですか・・・じゃあ、明日の11時に新千歳空港の国際線ターミナルに来なさい』

「はあ?」

『どうせ本選出場がなくなったんだから暇でしょ?なら来なさい、しかも一人で』

「まあ、たしかに予定はないですけど・・・でも、一人でとは?」

『そ、それは・・・とにかく、一人で来なさい!先輩としての命令です!!』

「はいはい、じゃあ、一人で行きますよ。どうせ姉さんも美紀も明日は出掛けるから絶対に来ないから大丈夫です」

『じゃあ、待ってるわよ』

 そう言ったかと思うと一方的に電話は切れた。


 だから僕は一人で快速に乗っているのだ。

 トキコー祭の翌日の時も、前日にクリス先輩が一方的に僕に電話を掛けてきて、模擬デートに連れ出されたけど、今日は一体、何の目的があって呼び出したんだろう・・・。

 僕の疑問に答えてくれる人はいない。姉さんに知れたら絶対に横槍を入れてくるだろうし、それは美紀も同じだ。だから姉さんと美紀が相次いで出掛けたのを見届けた後、僕も出掛けた。

 普段なら僕は札幌方面へ向かう列車に乗るので2番線に行くが、今日は逆方向なので1番線だ。そして新千歳空港行きの快速列車が到着したので、先頭車両である1号車に一人で乗り込んだ。当然、僕は今日も座席に座っていない。

 あとは新千歳空港駅に到着するのを待つだけ・・・と思っていたが、ビール庭園駅の次の駅である長都おさつ駅を通過した直後、非常ブレーキが掛かって止まってしまった。何の事かと思っていたらやがて車内アナウンスがあった。

『前方の踏切で障害物を検知した為、停車致しました。安全確認を行うのでしばらく待ちください』

 おいおい、こんな時に何だよ。ただ単に踏切に車が取り残されたとかのレベルならいいけど、脱輪とか故障車だったら当面動かないぞ。しかも美紀が出掛けるのが想定していたより遅かったから、この快速は待ち合わせ時間ギリギリで、5分位しか時間的余裕がないぞ。

 だが、早く動いてくれという僕の期待もむなしく、5分を経過した。仕方ないので僕はクリス先輩にメールを入れた。

『快速に乗ってるけど、踏切トラブルの為、長都駅付近で停車している。まだ運転再開してないから遅れる』

それだけ打つと素早く送信した。それに対しクリス先輩からは速攻で返信がきて

『分かった。運転再開したら教えてね』

とだけ書いてあった。

 僕はジリジリとして気分で運転再開を待ったけど、10分経ってもまだ動かない。やがて15分経とうとした所で、ようやく運転再開のアナウンスがあり動き出した。

 やれやれ、これで一安心だ。だが、動き出した事を連絡しないとクリス先輩が心配する。だから僕は『運転再開した』とだけ送信し、すぐにクリス先輩から『分かった』とだけ返信がきた。

 およそ15分遅れで千歳駅に到着した快速は次の南千歳駅に向けて発車した。やがて南千歳駅に近付き減速した。快速は本線である1番線ではなく3番線に入線するのでポイント通過の関係で駅のかなり手前で減速する・・・のだが、この減速はあまりにもおかしい。どうみても減速し過ぎだ。という事はこの次の信号、つまりポイント手前の本線信号が赤という事だ。

 やがて車内アナウンスがあり『前方の信号が赤なので停止しました。発車までしばらくお待ちください』との事で、本日2度目の停車となった。

 多分、他の列車が遅れてるから構内に進入できないんだなと軽く考えていたが、5分、10分経っても動き出さない。おかしいと思っていたら、また車内アナウンスがあった。

『お客様にお知らせします。ポイントが切り替わらない故障が発生し、信号が赤の為、南千歳駅に入る事が出来ません。復旧までしばらくお待ちください』

 おい、ちょっと待て!これは緊急事態以外の何物でもないぞ。千歳駅を既に発車しているから降りるに降りられないし、仮に千歳駅で降りられたならバスやタクシーなどという手段もあったが、既に南千歳駅が目の前に見えている状態では手の施しようがないぞ。まさに復旧を待つしかない状態だ。

 仕方ないから再びクリス先輩に『ポイント故障の為、南千歳駅手前で止まっている。復旧見通しが立たない』と送信した。それに対しクリス先輩からは『なんだそりゃあ。JRに文句言ってやる!』と返信がきたが、僕は『そんな事をしても無駄だから、復旧を待つしかないよ』とだけ送信し、『わかった。とにかく運転再開したら連絡して』と返信がきた。

 さすがに立っているのも疲れるから、僕は空いている座席に座る事にした。この車両はロングシートの近郊型車両で、僕は空いている席に座った。そして、やる事もないからスマホの画面を開いて適当に見ていた。

 15分、30分と経過したがまだ動かない。おいおい、これはさすがにヤバイ。しかも『もう待てないぞ』と、とうとうクリス先輩がブチギレメールを入れてきた。仕方ないからもう1回クリス先輩に送信した。『まだ止まったままです』とだけ送信したが、それに対しクリス先輩は『勘弁しれくれよお』とだけ返信が来た。

 そして、1時間ちょっと停車していたが、ようやく運転再開のアナウンスがあり、快速は動き出した。多分、時速25キロ以下のゆっくりとした速度で進み、南千歳駅の3番線に停車した。ただ、ここから先の新千歳空港駅までは単線区間であり、しかも石勝線の特急列車が前方を横断する形で4番線に入ってくるから、ここでさらに待たされた挙句、新千歳空港駅から快速が出てこないと進めないため、さらに待たされ、結果的に10分程停車して、ようやく動き出した。

 ここで僕はクリス先輩に『動き出した』とだけ送信した。やがてゆっくりと快速は新千歳空港駅に到着した。なんだかんだで1時間半以上遅れての到着だ。やれやれ、ようやく着いたか・・・やっぱり、僕は幸運の女神に見放されたのかなあ。

 待ち合わせ場所は国際線ターミナルの出発ロビーだ。という事はこれからニュージーランドに行くのか?いやまて、新千歳空港からニュージーランドに行く直行便は無い。という事は、これから観光に行くのか?

 そんな事を思いながら僕は国際線ターミナルに向かった。

 えーと、クリス先輩はどこに・・・あ、多分あれだ。クリス先輩はある意味目立つから遠目でもはっきり分かる。以前模擬デートした時と同じようなワンピースだけど色違いの薄い桜色の物を着ているから、あれに間違いないだろう。

 僕は軽く手を上げてクリス先輩の所へ歩いて行った。

「すみません、遅くなりました」

「遅いわよ!おかげでギリギリになったから食べ損ねたわ」

「はあ?」

「折角、私の奢りで何か食べさせてあげようと思ってたのに」

「へ?・・・でも、それだけの為に僕を呼んだとは思えないですよ」

「さすがに鋭いわね。実はこれから上海シャンハイに行くのよ」

「えー!」

「パパとママが今日の午後に上海に来るから、そこで合流した後、明日の午後シドニー経由でオークランドのパパの家に行く事にしたわ」

「はー、やっぱりセレブは違いますね。僕にはピンとこないですよ」

「出来ればセレブという言葉は使って欲しくないんだけどね。でも、本当は東京に行くつもりだったのよ」

「はあ?」

「猛君の応援にね。その結果を見届けてからニュージーランドに行くつもりだったけど、予定変更ね」

「ちょ、ちょっと待って下さい!たしかに松岡先生は補欠出場の場合でも顧問として東京へ行くと言ってましたけど、クリス先輩は無関係ですよね」

「別にいいでしょ!個人的に応援したかっただけ。何かおかしい?」

「・・・応援に来てくれたら嬉しかったけど、実際には東京へ行けなかったのですから『絵に描いた餅』です」

「まあ、それは否定できないわね。ところで、猛君の今後の予定はどうなるの?まさか毎日ゴロゴロ昼寝っていう訳じゃあないでしょ?」

「あー、そんな事はないです。僕も予定変更で明日から1週間の予定で摩周へ行きますよー」

「摩周?」

「美紀の家だよ。そこへ母さんと姉さんと一緒に行くんだ。もし本選に行けたら当然そっちが優先だったけど、行かなくなったから美紀の家の都合に合わせて明日から行く事になったんだ」

「へえ、それじゃあ、後で摩周の話も聞かせてね。私もニュージーランドの話を聞かせてあげるから・・・じゃあ、もう時間だから私は行くわよ」

「行ってらっしゃい」

 そう言ってクリス先輩は出発カウンターに向かって歩いていき・・・ではなく、クリス先輩は僕に向かって歩いてきた。

「!!!」

 クリス先輩は僕の左頬に口づけをしたかと思うと、ニコッとして

「じゃあ、行ってくるわね」

 そう言って、クリス先輩は本当に僕に背中を向けて歩き出した。


 あのー、クリス先輩・・・僕の左頬に口づけした意味は何だったのですか?よく欧米のドラマなどで見る、お出掛けとかお別れのキスだったのかなあ・・・多分そうだと思うけど。

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