第27話 8月5日(木)異世界の扉の向こう側④
「ところで美紀、今日の8時からに何をやるつもりだったんだ?」
「ああ、その件だが・・・もうすぐ始めるけど、今なら少し時間があるから自分で見ればどうだ?」
「時間がある?」
「パーティメンバー全員が揃ったらダンジョンの攻略に乗り出すのさ。先週酒場にいる時にチャットで誘われたしいけど、結構難易度が高いダンジョンで特に前衛になれる強力なキャラが欲しかったみたいなんだ。それで誘われたからOKしたらみたいだぞ」
「ふうん」
「まあ、残るメンバーが大学生とか社会人だからこの時間になったみたいだけど」
「たしかに社会人が真昼間からゲーム三昧という訳にはいかないよなあ」
「そういう訳だ」
そう言いつつ僕は美紀の目の前にある大きな3面ディスプレイを見たが、ある事に気付いた。
「・・・美紀、まさかとは思うけど、これは・・・このキャラデザインは・・・」
「あー、猛も知ってて当たり前だよな。ドラゴンファイナルクエストのオンライン版さ」
「でも、これって無料のオンラインゲームじゃあないよね。僕は基本無料のオンラインゲームはいくつかやった事があるけど、これはやった事ないよ」
「そうだろうな。叔母さんが絶対にやらせないのは分かってたから、猛はやった事なくて当たり前だよな?」
「じゃあ、美紀はやった事はあるのか?」
「うーん、元々は兄ちゃんがやってたのをあたしが引き継いでいたから、そっちのノートパソコンのキャラはあたしが育て上げたといっても過言ではない。まあ、正確には最初は兄ちゃんが始めたんだけど大学に進学して家を出た時に兄貴が引き継いで、それをあたしが引き継いだのさ。本当はこのノートパソコンをみっきーの家に持って行きたかったけど、お母さんがみっきの家にパソコンを持って行くのを認めてくれなかったら諦めたのさ。兄貴たちはそれぞれ自分のキャラを持ってるけど、お母さんが自分のキャラを育て過ぎたとか言って、暇潰しにあたしのキャラも勝手に育て上げていて、あたしも一昨日開いてあまりの凄まじさに唖然としたぞ」
「唖然とした?」
「そりゃあそうだろ?何ならそのパソコンを開いてみろ?」
「いいのか?」
「構わん。どうせ今の所有者はあたしだ。あー、でもお金は今でも兄貴が払ってるみたいだぞ。まあ、兄貴の場合、本当はやりたいみたいだけど恵美さんが怒るからと言ってオンラインゲームそのものを自粛しているみたいなのさ。どう見たって尻に敷かれてるとしか思えないよなあ」
「まあ、たしかに高校、大学と一緒だった彼女が駄目って言ったら諦めるしかないよね」
「だろ?うちは代々『かかあ天下』の家系だからな」
「まさに父系の遺伝だね。そういう人を嫁さんに選んじゃうのかなあ」
「そうかもしれないぞ」
「ところで、恵美さんは今は何をしてるんだ?」
「あたしも詳しくは知らないけど、釧路で一人暮らしをしてるって聞いた」
「今でもアツアツなのか?前に来た時は結構アツアツだったよね」
「あー、その件だけど、兄貴は恵美さんと結婚するつもりでいるみたいだぞ」
「はあ?マジかよ!?」
「まあ、元々恵美さんもそのつもりでいたみたいだぞ。それに、むこうの親としても同じ酪農家としてあちらの家の経営も楽ではないから、これを機にうちと提携して経営を安定させたいみたいだし、場合によってはうちが吸収する形で経営から手を引いてもいいと考えてるらしい。あたしも摩周に帰ってくるまでは知らなかったけど、お母さんが教えてくれたんだ」
「だからゲームをしなくなったのか・・・納得」
「あー、でも、さっきの話はナイショ」
「分かったよ」
「じゃあ、取り合えずそのノートパコンを開けてやるから、ちょっと待ってろ」
「ああ、頼むよ」
そう言うと美紀はノートパソコンを立ち上げてドラゴンファイナルクエストを開いた。
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