第66話 8月16日(月)夏休み最後のイベント②
あ、固定電話に着信だ。江田さんの家は店の番号と家の番号は別番号を使っているからこれは家の電話の方だ。今は江田さんのお父さんもお母さんも店に出ているから江田さんがキッチンにコードレス電話に出た。
「もしもし・・・あらー、鈴井さん、どうしたの?・・・え?・・・そう・・・そう・・・うーん、明日は大丈夫なの?・・・うん、美貴の方は気にしなくていいわよ。とにかく今は自分の事を考えなさい。それじゃあ、お大事に」
僕は電話の相手が鈴井さんだというのは分かったけど、話の内容はイマイチ分からない。でも、最後に『お大事に』と言ってたから、もしかして・・・
案の定、江田さんは電話を切るなり
「たけしくーん、ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
江田さんはニコニコしながら僕に話し掛けて来たからピンときた。
「あのー、もしかして今の電話は鈴井さんが来れなくなったとか・・・」
「そうよ。どうも夏風邪みたくて38℃を超えてるみたいなのねー。だから美貴の家庭教師役がいないのよー」
「まさかとは思うけど僕に代役をやれってことですかあ?」
「お願い!わたしが猛君の宿題を写し終えたら美貴の宿題をやらせるからさあ、それにお母さんに頼んでパンとケーキを差し上げるから、わたしが宿題を写し終えるまででいいから家庭教師をやってくれないかなあ?」
「別に僕は構いませんけど、どう見ても昼過ぎまで家庭教師をやれってことですよねえ!?」
「お願い!」
「はー・・・こえだちゃんがOKするなら僕はいいですよ」
「サンキュー!ちょっと美貴に聞いてみるね」
江田さんはニコニコしながらリビングで宿題と格闘中のこえだちゃんのところへ行ったけど、江田さんが話しを始めた途端に
「えー!せんぱいがやってくれるんですかあ!もっちろん大歓迎でーす!」
おいおい、二つ返事でこえだちゃんが了承したけど、本当に僕でいいのかなあ?
仕方なく僕は飲みかけの紅茶を全部飲み干すとこえだちゃんの横に座って宿題を見始めた。
「えーと、今は数学だよね」
「そうですよー。国語と英語は終わってるけど、数学は手付かずだったから一番先にやり始めたよー」
「じゃあ、とりあえず自分で解いてみてよ。途中で躓いたり式そのものが分からない時は言ってね」
「りょーかいであります!」
僕は黙ってこえだちゃんの数学のテキストを見ていたけど、こえだちゃんは小さい字で延々と計算式を並べて問題を解いている。一問一問にかかる時間は他の人の倍以上あるのは間違いないけど、答えだけは合っているのは僕にも分かる。
でも、何でこんな面倒な方法をやるんだ?それにもっと楽な公式を当て嵌めれば半分くらいの時間で終わるのに、何故使わないんだ?
さすがに僕も時間の無駄のような気がしてきたからこえだちゃんに声を掛けた。
「・・・こえだちゃん、ちょっといいかなあ」
「あー、はい、いいですよー」
「こえだちゃんがやっているやり方は随分回り道のような気がするんだけど・・・」
「あー、せんぱいも佐藤先生と同じ事を言いますね」
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