第67話 8月16日(月)夏休み最後のイベント③
「佐藤先生?」
「みきのクラスの3年3組の担任だよ。3年生全クラスの数学も受け持ってるよ」
「へえ。佐藤という先生は去年はいなかったから、もしかして4月にどこかの学校からトーチュウに来た先生なのかい?」
「ううん、違うよ。ピッカピカの1年生の先生」
「えっ?教師なりたての先生が3年生の担任をやってるって事なの?」
「そうだよー。物凄い美人の先生で、クラスだけでなく学校中の男子が熱狂してるんだよ。しかも殆どノーメイクなのに信じられないくらいの美貌でスラリとしてるから、女子からは『ヴィーナスの化身』とまで呼ばれていて男女問わず圧倒的な人気を誇っている先生だと言っても過言ではないよ」
「へえ」
「あー、そうだ、佐藤先生はお姉ちゃんやせんぱいと同じトキコーのOGだから二人の先輩になるんだよ」
「ふーん」
「トキコーを卒業した後は札幌教育大学を経て、今年からトーチュウに数学教師としてやってきたんだよ」
「はあ?という事は山根先生や高崎先生と同じって事じゃあないか!」
「あー、言われてみれば猛君の言うとおりね。山根先生も高崎先生もトキコーから札幌教育大学を経て教師になってるからねえ」
「おねえちゃん!それを早く教えてよ!!」
「ゴメンゴメン、わたしも今になって気付いた」
「佐藤先生は図書委員会の担当で手芸部の顧問なんだけど、せんぱいも知ってると思うけど校内一の不人気部と言われた手芸部に入部希望者が殺到して、2年生や3年生の帰宅部だった人も中途入部したから囲碁・将棋部の3倍の人数になったし、図書委員だって希望者が殺到して中にはやむを得ずクジ引きで委員を決めたクラスもあるくらいだよ」
「へえ。佐藤先生は手先が器用なの?」
「そうだよ。職員室には佐藤先生自作の〇ディ・ベアが飾られてるよ」
「美の女神様は同時に手芸の女神様でもあったんだね」
「そういえば佐藤先生は高校の学園祭で行われたミスコンで優勝した事があるって言ってたよ」
「「はあ?じゃあ『ミス・トキコー』なの!?」」
「『ミス・トキコー』?それって何?」
「あー、そういえば美貴は知らなかったわね。今年は開催されなかったけど、毎年トキコー祭で行われていた美少女コンテストの事よ。因みに去年は豊崎先輩が『準ミス・トキコー』だったのよ」
「あー、そう言えばそうでしたね。姉さんが言ってました」
「本当は実姫先輩が大本命って言われてたけど本人が出場を拒否したから、史上最低の盛り上がりとまで言われたシラケムードだったってジャズ研のみんなが言ってたわよ」
「藤本先輩が出場を拒否したってどういう事?」
「さあ、さすがに僕もそこまでは知らないよ。実姫先輩本人にしか分からない事だとは思うけど」
「美貴、それじゃあ山根先生は佐藤先生が来た事で2番人気に落ちたって事なの?」
「うん、それは否定できないね。今年も吹奏楽部の顧問だし純の弟の貴幸君のクラス担任だけど、佐藤先生に人気が集中したから山根先生の影がすっかり薄くなっちゃったよ」
「2年生も3年生も山根先生から佐藤先生へ鞍替えしたって事よね。山根先生も可哀想に」
「そうでもないと思うよ。山根先生は結構重荷になってたらしくて『佐藤先生には申し訳ないけど正直気が楽になってホッとしている』って言ってたし、以前のように無理矢理笑顔を作っているんじゃあなくて自然な笑みで部活をやってるよ」
「「へえ」」
「まあ、少し脱線しちゃったから佐藤先生の話に戻すけど、せんぱいと同じ事を佐藤先生も言ってたけど期末テストの時にキッチリと結果を出したから佐藤先生もみきを褒めてたよ」
「へえ」
「さすがに時間内で全部できなくて60点満点で40点しか取れなかったけど、みきの自己記録を大幅に更新したよ」
「こえだちゃん・・・40点で自己記録更新ってことは・・・それまでの最高記録は・・・」
「・・・せんぱいから見たら笑っちゃう点数かもしれないけど去年までは31点。だけど中間テストは33点だったし、期末テストは過去最高の40点で、しかも書き込んだ問題でミスは1か所だけだったから時間があれば50点台を取れたはずだよ」
「すごいなあ。僕だって数学はいつも40点台だったからね。でも数学に関しては江田さんの方が遥かに上だよ」
「猛くーん、未来ちゃんは数学で満点を取らなかったら先生が驚くくらいだったよ」
「お姉ちゃーん、あんまり悲しくなるような事を言わないでよー」
「はいはい、ごめんなさいね」
「とにかく、佐藤先生が感心して『自分の持てる知識を生かして難題を解いていく方法は間違いじゃあないよ』って褒めてくれたんだよ。ただ、さすがに制限時間があるから公式を使った方が早いのは間違いないけど、自分のレベルがその公式を使えるようになるまでは無理して使う事もないと思うんだ。それは佐藤先生も同じ考えだったよ」
「へえ、じゃあ、こえだちゃんはヴィーナスの化身に褒められたんだ」
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