第4話 8月2日(月)スイーツ王国③

 遠くから見ていても、既にかなりの行列が出来ている事に気付いた。まだ開店前だっていうのに、なんという事だあ!

「猛、悪いけどあんただけ先に行って並んで頂戴。母さんたちも車を止めたらすぐに行くから」

「あー、いいですよー」

 僕は母さんに急かされ、スマホだけを持って車から降りた。母さんたちはそのまま車を止めるべく駐車場に向かったが、僕は列の最後尾に一人並んだ。どうみても50人近く並んでるぞ!こりゃあ、母さんの言った通り、食べるまでかなりの時間を要するからマジでお腹が空きそうだ。さすが人気店、観光客だけでなく地元の人からも愛されているみたいですねえ。

 僕たちが今日のお昼ご飯を食べるべくやってきた店の名前は『豚丼のどーん田』だ。そう、帯広名物の豚丼専門店だ。

 帯広駅前には豚丼発祥の店もあるし、その周辺にも豚丼を扱う店は沢山ある。帯広だけでなく十勝管内の町や村にもそれぞれ豚丼を扱っている店も数多くある。今日僕たちが来た店は、帯広でも結構有名な豚丼の店で観光雑誌にも載った事があるほどだ。

 僕が並んでからも数人来たが、少し遅れて母さんたちもやってきた。各々時間潰しの為の物を持っているけど、さすがに開店前にこの行列だと、それだけで済むとは思えないぞ。

 やがて開店時間になったから行列が少し動き出したけど、まだまだ掛かりそうだ。

 30分ほどして最初のお客さんが出て行き、少しだけ動いたが、まだかかりそうだ。

 さらに10分、15分と経過し、すこしずつ進んでいるが、まだ入れない。もうすぐ暖簾を潜れるというのに、このもどかしさが何とも言えない。

 その時、店員さんがメニューを持って僕たちの所にきた。先に注文しておけば時間の節約になるので、先ほどから一定のタイミングで注文を取りに来ていたのだが、それがようやく僕たちの所まで来てくれたという事だ。

 僕と母さんはバラ肉、姉さんと美紀はロース肉の豚丼を注文し、それの控えを貰ったところで列が少し進み、ようやく僕たちは暖簾をくぐる事が出来た。でも、店内にはまだ大勢の人がまっているから、実際に食べる事が出来るのはまだ先になりそうだ。

 お店の中に入った事で、豚丼のいいにおいが鼻をくすぐる。でも、まだ座る事が出来ないから、もどかしくて仕方ない。姉さんたちも早く食べたくてウズウズしているが、やはりどうしようもないと言った感じでひたすら待ち続けている。

 結局、僕たちは並び始めてから1時間半かかって、ようやく座る事が出来た。席に座るまでは時間を要したけど、豚丼が出てきたのは、それから2~3分であった。

 帯広の豚丼は、吉田屋や梅屋の牛丼を豚肉に変えた物ではない。豚肉をフライパン又は網で焼き、それにお店独自のタレで味付けしてアツアツご飯の上に乗せたものであり基本的に豚肉以外の物を乗せる事はしない。このお店の場合はフライパンで豚肉を焼いているが、網で焼く店もある。

「「「「いただきまーす」」」」

 僕たちは豚丼を早速食べ始めた。何しろ1時間半も待たされたから腹ペコである。さっきシュークリームを食べた事を忘れる位の空腹感に襲われているのは、この豚丼のタレの匂いなのは間違いと思う。

 この店のお米は北海道産米。十勝ではお米を栽培してないから仕方ないけど、いわゆる地元米だ。豚肉は地元十勝産だから、米も肉も地産地消だ。

 それに、この豚肉も美味しいけど、タレがしみ込んだご飯がまた美味しい。しかもタレを自分で追加して掛ける事が出来るのがもっと嬉しい。姉さんだけはタレを追加する事をしなかったけど、母さんがこれでもかと言わんばかりにタレを追加して上機嫌で食べていた。姉さんと美紀は普段ならお喋りしながら食べるのに、今日に限っては無言で箸を動かし続けている所に、このお店の豚丼の美味しさが伝わってきていると思う。

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