第58話 8月14日(土)みんなで持ち寄ってジンギスカンだあ!⑤

 僕と美紀は小屋にある古い毛布を出そうとして外に出たけど、丁度その時、目の前にあるサコマ横から、一人の見慣れた人が出て来た。

「あれ?光希さんじゃあないですか?」

「あら?猛君に坪井さん、何か色々と駐車場に並べてあるけど楽しそうね」

 そう光希さんは言うと道路を渡って僕と美紀の前に来た。でも、光希さんが来ている服は普段着ではない。服を見ただけで僕には意味が理解できた。美紀は分からないかもしれないけど。

「猛くーん、もしかして今日は真昼間からジンギスカン?」

「そうですよー」

「いいなあ。わたしも参加したかったなあ」

「あのー、光希さん、今日はもしかして・・・」

「うん・・・あの人の初盆だから・・・」

「そうですか・・・」

「あー、でも私はあっちの家の人ではないから、区切りをつける意味で墓参りに行ってあちらの家にお線香を上げに行くだけよ。あちらの御両親も区切りにしたいって言ってるからね」

「「・・・・・」」

「まあ、これでわたしもあちらの家に上がる事もなくなるかと思うと、別の意味で考えちゃう事も多いけどね。あ、ゴメンゴメン、ちょっとシケた話になっちゃったけど、もし帰ってきた時にまだやってたら参加してもいいかしら?」

「僕は構いませんよ」

「じゃあ、その時にはセン、じゃあなくて高崎先生も一緒でいいかしら?」

「え?どういう意味?」

「もうすぐ高崎先生が車で迎えに来るのよねー。さっき電話があったから外に出て来ただけなんだけど、高崎先生もあの人の知人にあたる人だし、それにあの時に・・・」

「あの時?」

「まあ、それはこんな場所で言うべき話ではないわね」

 その時、見慣れたピンクの軽自動車がサコマの駐車場に入ってきてバックで車を止めた。そこから降りてきたのは予想通り高崎先生だった。高崎先生も光希さんと同じ服装だ。そのまま高崎先生も道路を渡ってこっちに来た。

「篠原君に坪井さーん、元気に夏休みを過ごしてますかあ」

「あー、はい、何事もなく過ごしてますよ」

「宿題は終わってますかあ?特に坪井さんは大丈夫ですかあ?」

「高崎先生、あたしも猛も昨日で全部終わらせましたからバッチリです!」

「あー、でも本当は姉さんが美紀につきっきりでやらせたという表現が正しいですよ」

「たけしー、頼むから黙っててくれよお」

「まあ、そこが坪井さんらしいですねえ」

「勘弁してくださいよお。あたしらしいって言われてもさあ」

「ところで、コンロが出てるって事は真昼間からジンギスカンですかあ?」

「「そうですよー」」

「そういえばー、まだ猛君が幼稚園児だった時に私も安藤もここでジンギスカンをやった事があったわねー。安藤、覚えてる?」

「そう言えばありましたね。猛君も未来さんも幼稚園児だったし、一樹君も小学生か中学生だったと思ったけど、猛君のお父さんがジンギスカンを振舞ってくれたわね」

「あのー、僕、覚えてないですよ」

「あたしは当然いないから知らないですよ」

「まあ、それは仕方ないかも。わたしだって高崎先生に言われて思い出したくらいよ」

「私も安藤も現役高校生の頃の話ですからねえ」

「そうね、懐かしいなあ」

「あの時の幼稚園児が今は高校生ですからねえ。時間が進むのは早いですねー」

「猛君がウィンナーを全部一気に網に乗せたから一部が網からこぼれ落ちて炭で真っ黒に焦がしちゃったのを思い出したわよー」

「えー!僕ってそんな事をしたんですかあ!?」

「他にも食べかけのお握りを落として砂だらけにして未来さんから怒られたりもしてたわね」

「猛君がジュースを溢して一樹君のズボンがびっしょりになって途中で履き替えたってのもあったですねー」

「うわっ、お願いですから失敗談ばかり集めないでくださいよお」

 その後もしばらく四人で会話してたけど、高崎先生も光希さんも墓参りに行ってお線香を上げた後は昼食をどこかで食べるだけしかないって言ってたから、僕が「高崎先生も参加しませんか?」と誘ったら、高崎先生が妙に乗り気になってしまった。しかもこの服だと食べにくいから、帰り道に自分の部屋で着替えてから戻ってくるって言い出す始末だ。光希さんは目の前だから全然問題ない。

「わたしもニュージーランドのラム肉はスーパーで売ってる物しか食べた事がないから是非食べてみたいわよ。高崎先生もそうでしょ?」

「もちろんですよー。いやー、私も本場ニュージーランドの高級ラム肉なんて食べた事ないですからねえ。こんな機会を逃したら二度と食べられないかもしれないから、早いとこ済ませて戻ってきましょう!」

「そうね、じゃあ、出来るだけ早く用事を済ませてくるから、肉は残しておいてくださいね」

「はーい。でも、10キロもあったら絶対に残ってると思いますよ」

「それじゃあ、また後で」

 高崎先生と光希さんは手を振って僕たちと別れ、そのまま高崎先生が運転する車で出掛けていった。それを見送った後に僕と美紀は小屋の奥に入れてあった古い毛布を取り出す為に自転車を出したり畑仕事に使う物を出したりした。毛布を出した後は一度広げて汚れを濡れた布巾で拭いて、その後はキャンプ用のテーブルを並べる作業などもして、残る作業は炭火を起こす事くらいになった。

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