第19話 8月5日(木)神秘の・・・②

 僕は美紀に急かされる形で三脚を立ててカメラをセットした。

 でも、思っていた以上に構図がよろしくない・・・美紀は構わないかもしれないけど、僕はこの構図では納得できない。

「もうちょっと待ってよー。今、バランスを考えてるからさあ」

「ちぇっ、仕方ないなあ。じゃあ、あと少しだけ待っててやるから早くしろよー。最初があたしで次はみっきーだぞ」

「はいはい、まったく人の都合も考えて欲しいぞ」

 そう言いつつ、美紀も姉さんもニコニコしながら僕が来るのを待っている。

 僕はセルフタイマーを10秒にセットし、美紀の右側に立った。5、4、3・・・

 いきなり美紀が右手を僕の首に回して引き寄せたから、僕はバランスを崩して「うわっ」と言って変な顔して美紀の肩のところに突っ込む形になった。その瞬間にシャッターが切られたから、その写真は変な顔をした写真になっていた。しかも美紀は茶目っ気満々の顔をしている。

「ちょっとー、やり直そうよー」

「きゃーっか!この写真を消すのは許さーん!!」

「そうそう、こういう写真は後でゆすりネタになるから貴重品よー」

「姉さんまでー。マジで勘弁してくださいよー」

「うーん、じゃあ、次は私がもっと大胆な事をしちゃおっかなあ」

「勘弁して下さいよー。それに姉さんだってこんな写真が表に出たら困るかもしれないよー」

「あー、あたしはそんなヘマをしないし、だいたい猛がそんな写真を公表するほどの度胸があるとは思えないわよ」

「はー・・・分かりましたよ。じゃあ、好きにして下さい。その代わりどんな事をされても驚かないから」

「じゃあ、好きにさせてもらうわよ」

「はいはい」

 と言ってセルフタイマーをセットして写真を撮ったけど、結局姉さんはニコっと微笑んだだけで何もしなかった。あれれ?逆に僕の方は何があってもいいように身構えていたから、物凄く強張った顔で写っている。これもある意味爆笑モノの写真だ。

 姉さんも美紀もゲラゲラ笑っているし、母さんもそれ画像を見て笑っている。おいおい、最初から僕をハメるつもりだったな。勘弁してほしいぞ。

 結局、最後に4人で真面目に写真を撮って展望台での記念撮影は終わり、その後少しだけ感傷に浸りつつ自分のスマホでも写真を撮ったところで裏摩周展望台から離れた。

 今日のこの後の予定は、どこかでお昼ご飯を食べた後に湯川温泉へ行って日帰りの温泉に入り、再び美紀の家に戻る事になる。本来なら亡くなったお爺ちゃん、お婆ちゃんの墓参りと行きたい所なのだが、墓を守るべき人の家系が無くなったで、やむなく永代供養に変わっているので墓参りはない。その代わり、家のあった場所だけは見に行く事になっている。

「ところで叔母さん、お昼ご飯はどこで食べるの?」

「そうそう、それは私も気になっていたんだけど、母さんのおススメは?」

「うーん・・・そうねえ、じゃあ、あそこに行きましょう」

 そう言って母さんは出発した。どこに行くかは教えてくれなかったが「湯川温泉の近く」とだけ教えてくれた。そのまま僕たちは、朝から摩周湖の周りを反時計周りでぐるっと一周する形で、再び摩周町に入り、そのまま湯川温泉へ・・・と思ったら、母さんは国道にあった「湯川温泉 → 」の看板を通過した。そして、信号機のある交差点を左に曲がったと思ったら、その正面にかなり歴史がありそうな建物が見えてきた。

 その建物には、こう書かれていた。

『湯川温泉駅』

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