第8話 8月2日(月)KYな奴②
そして僕たちは摩周の道の駅に到着した。
ここで慶子伯母さんと合流して夕食のおかずとなる物を一緒に買った後、美紀の家に向かう事になるのだ。だから既に美紀が伯母さんにメールを入れてある・・・のだが、伯母さんが来てない!
美紀がスマホに向かって文句を言ってる。どうやら伯母さんが美紀に返信したにも関わらず、まだ家にいるみたいなのだ。美紀がぷんぷんするのも頷ける。この辺りはグータラ主婦である母さんと同じだ。あ、でも伯母さんは凄腕パートではなく凄腕社長夫人なのだから、ある意味、グータラ度も母さんより格が上なのかもしれない。
そんな伯母さんの到着を待つため、僕たちは道の駅にある足湯で旅の疲れを癒していた。足湯のある道の駅は全国を探してもあまり無いから貴重な存在とも言えた。
「あー、やっぱり温泉もいいけど、足湯もいいわねえ」
「みっきー、どんくさい感想を言ってるけど、マジで高校生というよりはオバサンみたいなセリフだな」
「失礼ね、こう見えても私は純情たる乙女よ。母さんならともかく、私にオバサンは酷くない?」
「あらー、それなら母さんをオバサン呼ばわりするのはやめて欲しいなあ。老け込むのはまだ早いと思うけど?」
「四捨五入すれば50歳の人に言われたくないです!」
「あら?母さんは四捨五入すれば赤ちゃんよ」
「「はあ?」」
「姉さん、10の位を四捨五入したらゼロ歳と言いたいんだよ」
「そういう事。さすがわが息子よ、ナイスフォロー!」
「母さん、無理して若作りするような年齢じゃあないでしょ?」
「ハイハイ、どうせ母さんは50歳ですよーだ」
「まあまあ、母さんもそんなに不貞腐れないで下さいよお」
と、母さんが年甲斐もなく拗ねているところへ、見覚えのあるシルバーの軽自動車が道の駅の駐車場に止まった。
その車を降りてノンビリとこちらへ向かって歩いてくるのは、間違いなく美紀のお母さんである慶子伯母さんだ。
「お母さん!何やってたんだよー!!ぷんぷーん」
「あー、ゴメンゴメン、ちょっと色々あってさあ」
「ったくー、あんたはエゾシカですかあ!」
「はあ?実の母親に対してエゾシカって何?わたしをあんな丸々太った、それこそ贅肉だらけのオバサン扱いして面白い?いまだに20代の頃の体型を維持している母に謝りなさい!」
「KYな奴だって言いたいんだよー!」
「あらー、さすが私の娘ね。
「お母さん!」
「分かってるわよ!あんまりブツブツ言うと毎月のお小遣いを減らすわよ!!」
「う・・・遅刻しておいて小遣い減らすとは卑怯だあ!」
「だってえ、あんたさあ、家の前がコンビニなのをいい事にお菓子をところ構わず食べ散らかしてるって聞いたわよ。そんな堕落した生活にお金を使う位ならジビエのステーキかジンギスカンにお金を使った方がよっぽど世間様のためよ」
「ジビエ?」
「そう、ジビエよ」
「お母さん、ジビエって何?あたしは全然知らないんだけど・・・」
「・・・・・」
「・・・お母さん、分からないのにジビエなんて言葉を使ったとか?」
「・・・そ、それはジューシーでビリビリってくる、エキゾチックな料理の事よ。分かったか!このバカ娘!!」
「・・・お母さん、素直に『分からない』って言おうよ・・・」
「・・・洋子、姉に代わって答えなさい!」
「はあ?ちょっとお姉さん、いきなり振られても・・・」
「答えなさい!」
「はあい・・・未来、母に代わって答えなさい!」
「いいわよー。ジビエとは、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味するフランス語よ。日本ではイノシシやエゾシカが知られているわ。因みに鹿肉はヨーロッパでは高級ジビエとしてセレブに人気で、低カロリーかつ低脂肪、そして高タンパクで鉄分も多くて、脂肪は和牛の1割なのに鉄分は和牛の4倍もあるのよ。特に北海道では増えすぎたエゾシカを駆除した後に有効利用するという地産地消の目的もあり、料理店だけでなく一般のスーパーでも扱う所が増えているわ」
「そ、そういう事よ。さすが道内一の進学校の主席入学にして学年1位の自慢の娘ね。おーほっほっほー」
「・・・美紀、あんたさあ、1学期の期末テスト・・・洋子おばさんにも結果を教えなかったんでしょ?今ここで言いなさい」
「・・・1位だった・・・ギリギリで通過した・・・」
「・・・あのー、美紀・・・未来ちゃんが学年1位だという事は・・・まさかとは思うけど・・・お母さん、これ以上あんたを問い詰めるのが可哀そうになってきたからやめておくわ」
「・・・お母さん、『
「「「「・・・・・」」」」
あのー・・・何とも言えない、気まずい空気が支配しているんですけど・・・僕は何と声を掛ければいいんですか・・・。
「あ、あのー、慶子伯母さん、そろそろ行きましょうよ。母さんも足の疲れも取れた頃だと思うし、猛も早く横になりたいでしょ?」
「姉さんの言う通りですね。そろそろ行きましょう」
「ところでお母さん、今日の夕飯は何?」
「はあ?あんたは食べる事しか考えてないの?」
「そんな事はない!食べる事以外では、遊ぶ事とテレビを見る事とゲームをやる事と猛を揶揄う事と・・・」
「みーきー、最後の一言は僕に対する嫌味ですかあ?」
「まったくー、実の娘ながら恥ずかしいわ。未来ちゃんの爪の垢を煎じて飲んで欲しいくらいよ。因みの今日はこの後スーパーで適当な物を買って適当なおかずを作って終わりにするけど、明日は健二も戻ってくるし、ゲンさんもいるから他の従業員も呼んで、お昼は豪勢にやるわよ」
「あらー、それは私も知らなかったなあ。お姉さん、『あれ』をやるのは私になるの?」
「うーん、『あれ』は洋子に頼むけど『こっち』は私がやるわ」
「はいはい、じゃあ、その材料も今から買うという事ね」
「そういうこと」
おいおい、この姉妹、また訳の分からない事を言い出したぞ。だいたい『あれ』とか『こっち』だけで通じるのかよ!?一体、どうやったらここまで意思疎通ができるんだ?
姉さんも美紀も互いの顔を見合わせて「何を言ってるの?」と言わんばかりの顔をしているし、それは僕も同じだ。
でも、母さんも慶子伯母さんも、そんな僕たちの事なんかお構いなしに歩き始めたから、僕たちも足湯から上がって大慌てでタオルで足を拭くと車へ戻った。全員が乗った所で母さんが車を出発させ、慶子伯母さんが先導する形で道の駅の近くにあるスーパーに行った。そこで母さんと叔母さんが適当に夕飯の材料を買い込み、僕たちがリクエストしたおかずの材料も買い込み、それらの会計を済ませたら出発した。
美紀の家がある『坪井牧場』までは、ここから車で10分くらいだ。
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