第48話 8月6日(金)食べ物をお腹一杯まで食べられるのは幸せな事だよ⑤

 あたしたち4人は一斉に食べ始めた。今日は大食いバトルではないが、それでもアンジェリカ一人であたしたち三人と対戦しているような気分になって、テンションは非常に高い。ザンタレはザンギの上からタレを掛けたシンプルな物で煮込みではないから、下のザンギの方が味が染みている。だからあたしは皿の下の方からザンギを1個取ってご飯の上に置いた。

 うーん、ご飯にタレが染み込んで美味そうだ。それにこのザンギはモモ肉だな。あたしはザンギを口に入れたけど、見た目と違ってカラッと揚がっていてクドイとは思わない。まさに絶妙のバランスとも言うべき味付けでむしろ箸が進む。

 あたしは2つ目のザンギを食べ始めたけど、みっきーと猛の箸が止まっている事に気付いた。しかも二人とも口をぽかーんと開けて、何かに気を取られた食べる事を忘れているようにも見える。

 あたしは「まさか!?」と思わずアンジェリカを見てしまった。その瞬間、あたしはフードファイターの凄まじさを見せつけられて戦慄した。

 アンジェリカはザンギを1つ丸ごと口に入れると、それをガツガツと噛み砕き、あっという間に飲み込んで次のザンギをまた口に入れるという事を繰り返していた。そう、まるでさっき撮った録画を再生しているかのような光景を見せられたが、皿のザンギがどんどん減っている事からもリアルだと認めざるを得ない。

 この時、アンジェリカは左手で丼を持ったかと思うと、これまたアニメの1シーンのようにしてご飯を掻き込むようにして食べ始めた。この喰いっぷりも半端じゃあない!見ていて背筋が冷たくなってきた。

 あたしは、アンジェリカは普通の人と比べて咬む力と飲み込む力が尋常ではないくらいに強いんだと気付いた。しかも、ドーナツの時にも気付いたが代謝がかなり高いようで汗だらけになって食べ続けている。

 それに、アンジェリカは食べる事を楽しんでいるかのように笑っている。そう、まるで子供が無邪気にご飯を食べる時のような、そんな表情をしながら食べ続けている。アンジェリカは食べる事に至福の喜びを感じている、まさに「爆食の申し子」「生まれつきのフードファイター」とでもいうべき存在なのだとあたしは思った。

 たしかにドーナツの時も豚丼の時も、あたしはとにかく根性とか精神論で挑もうとして結局アンジェリカの足元にも及ばなかった。あたしには「楽しんで料理を食べる」という考え方が無かったからアンジェリカの足元にも及ばなかった。根性を出せば料理がおいしくなる訳ではない、むしろ楽しんで食べれば美味しくなれるんだ。あたしはアンジェリカを見て、そう思わされた。

 だから今日は三人でアンジェリカを倒そうだなんて考えず、ひたすらザンタレを楽しんで食べる事に専念しようと決めた。今日だけは勝ち負けを考えず、アンジェリカはアンジェリカ、みっきーはみっきー、猛は猛で食べてくれれば、それだけで良しとしよう。

 あたしは3つ目のザンタレを食べ始めた。出来るだけ楽しく、食べる事を楽しむ事にしよう。そうすれば今日のザンタレは至福の喜びになるはずだ。4つ目、5つ目もあたしは楽しく食べる、喜んで食べるという事だけを考えて箸を進めた。

 でも、さすがに11個目からはキツクなってきた。そろそろ限界が見えて来たのか?ここからは楽しんで食べるという胸中にはなれそうもない。でも、持ち帰るにも気が引ける。仕方ない、ここからは根性で残った4個を食べよう!

 12個目、さすがに辛いか・・・いや、ここでレタスを食べて舌をリセットだ。それに味噌汁を使って口の中を癒せばまだいけそうだ。

 13個目、うーん、さっきより辛くなってきた。仕方ない、ここでご飯をつかってザンギを無理矢理胃袋に流し込んでしまえ。

 最後の1個、ヤバイ、さすがに限界か?根性で克服だあ!いや、ちょっと待て・・・根性で克服できるなら苦労しない。今日は楽しく食べる、喜んで食べる方が重要だ。だとしたら、どうやったら楽しく食べるかを考えてみよう。うーん、楽しくかあ・・・ちょっと思い浮かばないなあ。でも、残るは1個だ!何とか食べきりたい!!

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