第41話 8月6日(金)ノンビリいこう③
「さっき撮れって言っただろ?なんでやらなかったんだあ?」
「おいおい、まさかと思うけど、後ろ姿を撮れって事かあ?」
「別にどっちを見ててもいいだろ?」
「はいはい、分かりましたよ」
ったくー、美紀も姉さんも雑誌のモデルになったつもりかあ?どうしてこんな注文をつけるのか意味が分からないぞ。それに他の観光客もいるから、その人たちが写らないようにしつつ、湿原との調和も図らないといけないなんて、超がつく難問を突き付けたと同じだぞ。
えーと、そうなるとかなり僕は後ろに下がって美紀たちが左に入る構図が一番バランスがよさそうだな。ここは腕の見せ所・・・上原君なら、写真部ならどういう写真を撮るんだろうなあ。もし隣に写真部のメンバーがいるなら意見を聞いてみたいが、いない物は仕方ない。僕が一番いいと思う構図で撮るのが一番だ。
そういえば・・・以前、上原君と同じ位置で同じ列車を撮影したが、全く別の写真が出来上がったんだったなあ。その時に上原君が撮った写真をトキコー祭の時に実際に見たけど、僕が撮った物とはまるで別物の作品に仕上がっていた。どれを主役にするのかで、あんなにも出来栄えが変わるんだ。今の僕なら写真部の日々の頑張りが分かりそうな気がするよ。
折角だから写真を撮る位置も構図も変えて色々とやってみよう。どうせ美紀たちはどういう写真を撮るのかまでは注文を付けている訳じゃあないしね。
「おーい、撮れたよー」
「おー、そうかあ。みっきー、退屈な時間は終わったぞー」
「はあ?あれで退屈だったってどういう事だ?結構楽しそうに喋っていたじゃあないかあ!?」
「あー、あれはあれで楽しかったけど、同じ場所でずっと喋っているのは退屈だったって事だぞ。猛は楽しかったかもしれないけど、あたしとしては結構退屈だったぞ」
「そうよー。この眺めはまるで異世界の展望だけど、それを眺めているだけで一日が終わってしまうなんて寂しいでしょ?私としてはもうちょっと刺激が欲しかったなあ」
「じゃあ、姉さんが望む刺激とやらを味わいに行きましょう!」
「そうね、そうしましょう。かあさーん、そろそろ行くわよー」
「はいはい。ったくー、その元気はどこから出てくるのかしら?若いって羨ましいわね」
「リアル美魔女が何を言ってるのか知りませんが、時間は戻りませんよー」
「みーきー、あんたもいずれオバサンになるんだから、そんな事を言ってられるのは今のうちだけだからねー」
「私は母さんのような酔っ払いオバサンになりたくありません!」
「右に同じ!」
「僕も同感です!」
「高校生が大人をイジメてるー!母さんは拗ねちゃうぞ」
「こういう所だけ子供じみているところが中身は完全にオバサン化してる証拠です!」
「うるさいわよ!ったくー。じゃあ、行くわよ」
「素直に行くって言えばよかったのにー」
やれやれ、ようやく今日の本当の目的地へ行く事になったけど、これなら時間的にも丁度いいくらいだから、逆に良かったのかもしれない。
今日の本当の目的地、それは細岡展望台ではなく、釧網本線の『釧路湿原駅』だ。
この駅は元々は夏の間だけ営業する臨時駅だったが、今は常設化されている。この駅のある位置は細岡展望台から見たら丘の真下のような所になるから、そこまでは階段を歩いて行く必要がある。かつては駅まで行く道を車で行く事が出来たが、現在は入れないような措置が施されているので車で行けない。でも、兄さんが生まれる前に父さんと母さんが二人で車でこの駅に来た時の写真がアルバムに残っている。
かなり急な階段を右に左に曲がりながら駅までの階段を下りて行ったけど、雨だったら危ないかもしれないなと思いつつ、僕はカメラと三脚を手に持って下りている。今だけは興奮しているから三脚の重さが苦にならないが、開陽台の展望台の時は結構辛かったなあ。
ようやく釧路湿原駅についたけど、このログハウス風の駅舎はタンチョウが羽ばたいたような姿をしている。元々は仮駅だったから単線の片面にブロック板を並べたようなホームがあるけど、前後に信号機はない。当然ながら開設当初から無人駅だけど、いまだに開設された当初の仮駅の頃を
この駅のすぐ向こう側は湿原だ。けど、ズボズボとハマり込んで抜け出せなくなる可能性もあるし、ここは国立公園だから立ち入りは厳しく制限されていて絶対にやってはいけない行為だ。当然だが僕は立ち入る気はないし、それは美紀たちも同じだ。
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