第47話 8月6日(金)食べ物をお腹一杯まで食べられるのは幸せな事だよ④

 少し脱線したけど、この南蛮亭の料理は普通の料理でも他の店の大盛りかそれ以上のボリュームがある事で知られている。でも『ザンタレ』は大盛りでは済まない事で超有名なのだ。その証拠に店内には名前を知れたタレントさんが残していった色紙が何枚か飾られていて、かつて某テレビ局の企画で「しりとり」の旅をしていたタレントがしりとりの最中に来た時に書いた色紙も飾られている。ネットに投稿された写真を見る限りでは猛が注文したハーフで普通の店の唐揚げ定食並みだったから無難だと思うけど、アンジェリカはザンタレを三人分!尋常とは思えない食欲だ。

 だから今日のあたしはわざとアンジェリカの横に座っている。向い側の席に座るとアンジェリカの凄まじいペースに巻き込まれて自分が食べきれなくなる可能性があるからだ。まあ、全部食べ切れなくても持ち帰る事は可能だが、できればそれをしたくない。

 猛とみっきーはアンジェリカに夏休みに入ってからの事を色々と聞いてたけど、それによるとアンジェリカは小遣い、というか食費を稼ぐ為にバイトにかなり精を出しているようだ。夏休み中の茶道部は基本的に活動休止に等しいからバイトに明け暮れていても全然問題ないようだ。

 アンジェリカによると、南蛮亭にすべきか小泉屋の幻の裏メニュー『スパカツ大大大』つまりスパカツ大盛りの大盛りの大盛りにすべきかを「10円玉をコイントスして、表が出たら南蛮亭、裏が出たら小泉屋にするつもりだったけど、表だったから南蛮亭にした」と笑いながら言っていた。おいおい、こんな事をコイントスで決めてもいいのかよお。しかも小泉屋は明後日に行く気らしい。マジかよ!?あ、そうそう、猛が言ってたけど10円玉は平等院鳳凰堂が描かれている方が表面だそうだ。でも、法律上は表裏がなく造幣局が便宜上そう言ってるらしい。アンジェリカもみっきーも知ってたけど、あたしは『10』と書いてある方が表だと思ってた。一つ勉強になったよ。ついでに言えば昭和26年(1951年)から昭和33年(1958年)製造の10円玉は『ギザ十』と言われていて側面にギザギザがある。あたしも時々見かけるけど、半世紀以上経って現役で使われている事は凄いと思うよ。


『お待たせしましたー』


 どうやらアンジェリカの話を聞いてるうちに出来上がったみたいで2人の店員さんがお皿を持ってきたから、あたり一面に甘酸っぱいにおいが漂ってきて空腹には堪えるくらいだ。最初はあたしとみっきーが注文した『ザンタレ』だ。このザンタレを見た瞬間、みっきーが「わおーっ」と声を上げた。たしかに書き込み通りでザンギが山盛りに乗った皿は見る者を圧倒する。これで一人前なのかと思うとホレボレするくらいだ。皿の下の方に申し訳なさそうに少量のレタスが敷いてあるけど、殆どザンギの山盛りだあ!

 でも、その店員さんが一度戻ったかと思うと、一人は猛の『ザンタレハーフ』をテーブルに置き、もう一人がアンジェリカの前に『アンジェリカスペシャル』つまりザンタレ三人前をテーブルに乗せた。このアンジェリカスペシャルがテーブルに乗せられた瞬間、あたしも思わず「わおーっ」と言ってしまった!ザンタレをホレボレすると表現したのなら、アンジェリカスペシャルは感動レベル以外の何物でもない!!何しろ普通の皿では入りきれないから、直径が4、50センチくらいある大皿、あえて言うならホテルとかのバイキングメニューで料理を盛り付けてある皿に山盛りザンギなのだから、圧巻以外でもなんでもない!ご飯も店員さんが持ってきたけど、あたしたちの木の椀に盛られたご飯は、これでも普通のどんぶり飯くらいありそうで結構多いかなって思ったがアンジェリカのご飯は大きな丼に山盛りの、それこそコミックやアニメに出てくる大盛り飯をリアルにしたような、そんなご飯だ!!もう笑うしかなくなってるぞ。

 みっきーも猛もスマホで写真を撮るのに夢中になっている。スマホとザンタレを並べて撮って比較してるけど、アンジェリカスペシャルのあまりの大きさに興奮して撮りまくっているという方が正しいかもしれない。しかも、ザンタレハーフ、ザンタレと3つ並べて撮れば否が応でもアンジェリカスペシャルの圧倒的存在感が強調され、まさに別次元の料理だと実感させられた。

 あたしは自分のザンタレの上の方を椀のフタに取り分けながら数えてみた。1、2、3、4・・・13、14!ここのザンギはあたしの握りこぶしくらいの大きさのザンギを半分に切っているから、14個という事は握り拳7個分のザンギ!これだけでも圧倒されるのにアンジェリカスペシャルは・・・考えるだけ時間の無駄だ。それにアホらしい。


「「「「いただきまーす」」」」

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