第44話 8月6日(金)食べ物をお腹一杯まで食べられるのは幸せな事だよ①

 いやあ、たまにはノンビリ汽車の旅っていうのもいいねえ。あたしはせっかちだから、ああやって時の流れが止まったような時間を過ごすのも、悪くないかな。

 でも、さすがにもう1時を過ぎているからお腹が空いた・・・しかも今朝はわざと少な目に食べたから、余計に腹が減っている。みっきーも猛も普段より少なめ、というより、みっきーはともかく猛はただでさえ少食なのにそれよりも少ないっていうのは、あたしから見たらオヤツ程度にしか食べてないって事になるぞ。あいつにはもう少し肉を付けて欲しいものだ。

 この後は本当なら釧路発のB級グルメ『スパカツ』の元祖であるレストラン小泉屋の本店に行く・・・事になっているが、それは最初の話だ。この後の行動はあたしとみっきー、それと猛しか知らない。というか、あたしがみっきーと猛を抱き込んで変えさせたというのが正しい。その為には運転手である叔母さんを最初に何とかしないと駄目だ。この役割はみっきーに任せてあるが、上手くやってくれるかなあ・・・

「・・・あー、そうそう、かあさーん、ちょっと相談があるんだけど」

「あらー、未来が母さんに相談なんて珍しいわねえ。何かあったの?」

「うーん、実はさあ、お昼ご飯なんだけど『スパカツ』は札幌でも売ってる店がいくつかあるし、トキコーの近くでも食べられるのよねえ。だから、他のお店にしてもいい?」

「えー!母さんはスパカツだと思ってたから他の店にする気はないわよー。それにスパカツこそ釧路のB級グルメ。それは慶子おばさんや城太郎おじさんも同じよ」

「じゃあ、私と美紀ちゃん、猛は別の店の前で降ろしてもらって、後で迎えにきてもらうっていう事じゃあ駄目かなあ」

「母さん個人としては別にいいけど、おじさんとおばさんに確認をとってみなさい。それに、どこで何を食べる気なの?」

「あー、それは遠矢駅の前の店よ」

「遠矢駅?・・・あー、なるほどねえ。あの店のアレを札幌で求めるのはねえ。でも母さんはパス。さすがに胃袋は若くないわよ。あと10年若かったら行ったかもしれないけど、さすがに無理だから三人で行ってくれば?」

「じゃあ、母さんはOKね。おじさんとおばさんはどうですか?」

 あたしとみっきーは後ろを振り返ってお父さんとお母さんを見たけど

「うーん、洋子がいいっていうならお母さんはOKよ。それに、たまには大人だけでお昼を食べるのも悪くないわねえ」

「お父さんは別に構わないぞ」

 よっしゃあ!これであたしの計画通りになった。うーん、さすがみっきー!頼りになるぜ!!

 あたしたち三人は食べ終わった後でお母さんのケータイに電話するという事になったから、叔母さんはあたしたち三人を遠矢駅の前にある店のところで降ろしてくれた。さすがの猛もカメラと三脚を持って店に行く気はないようで、三人とも手ぶらだ。

「美紀ちゃん、必ず電話しなさいよー」

「はいはい、分かってますよ」

「ま、せいぜい頑張る事ね。後でおばさんたちにも料理の写真を見せてね」

「分かってるよー」

 そういうと叔母さんは車を走らせた。お母さんたちの目的地は小泉屋の本店だから釧路の中心部だ。そこに着くまで15分くらいかかるから、あたしたちの方が先に食べ終える事になる・・・と思うけど。

 おーし、猛もみっきーも気合を入れていくぞー!!

「おー!」

「お、おう・・・」

 おいおい、猛のやつ、全然元気がないぞ。さっきまでの威勢の良さはどこへ行ったんだあ?まあ、目的の物が終わったから少し元気がないのかな?でも、今日のあたしはこれが真の目的だったんだから、今が一番気合が入っているぞ!


『南蛮亭』


 この店の名前だ。あちこちのグルメ情報誌やグルメサイトなどでも紹介されている、釧路市の隣にある釧路町の食堂だ。かなり年季の入った店で、レストランというよりは町の食堂といった感じの店だ。昼時になるとお昼ご飯を食べに地元の人が来る、あくまで庶民の店だ。

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