第10話 8月2日(月)KYな奴④
「!!!そ、それは・・・」
そう言うと伯母さんはまるで勝ち誇ったかのような顔をして美紀を見ているし、美紀の方は、あきらかに動揺していて、挙動がおかしくなっている。
「・・・猛!さっきの話はウソ!!」
「はあい、そういう事でーす」
伯母さんはニコニコ顔で僕を見ているし、美紀は引き攣ったような苦笑いしている。あきらかに美紀は何かを僕に隠しているが、その事を伯母さんも知っているから、それを使って美紀を無理矢理黙らせたとしか思えないぞ。姉さんもキョトンとしているところを見ると、どうやら姉さんにも話していない秘密があるのか?
それにしても、伯母さんが握っている美紀の秘密の『あれ』って、一体何だろう?でも、それをここで詮索しても始まらないから、この話は終わりにした方がよさそうだ。
「あー、お姉さん、『あれ』はいつから仕込めばいいの?」。
「うーん、夕食後にする?」
「あー、いいわよー。鍋は適当な物を使っていいかなあ?」
「いいわよー」
そう言いつつ、母さんも叔母さんも、『タカマン』の大判焼きを食べつつ片付けをしている。おいおい、伯母さんはともかく、母さんは朝からずっと食べ続けだぞ。大丈夫かよ!?
まあ、姉さんもそれに近いけど、ここの脱衣所にはたしか体重計がないから絶叫で起こされる事が無いのは不幸中の幸い(?)でもある。
「母さん、また食べてるけど、このままだと夕飯食べられなくなるわよ」
「大丈夫大丈夫。どうせ私もお姉さんも最後に食べる事になるから、今のうちの食べておかないと最後まで持たないわよ」
「お腹じゃあなくて食欲を抑える事じゃあないですか、母さん」
「あらー、そんな事はないわよ。それに、未来が一緒だと、落ち着いてビール飲めないでしょ?」
「まったくー」
「それに、「あれ」は楽しくやらなければ損でしょ?だから景気づけに一杯のみながらやっちゃいましょう!」
「そうそう。大人の特権よねー」
姉さんが再びため息をついている。まあ、僕もある程度予想がついていたけどね。まったく、この姉妹は食べる事と飲む事しか話題がないのかよ!?
「おーい、猛、悪いけどデカイ段ボールが重くて持ち上がらないんだ。手伝ってくれー」
「あー、いいよー」
美紀が僕のところ言って来たので、軽い気持ちで美紀の依頼を受けたのだが・・・美紀と僕の二人がかりでも結構重い箱の中身はなんだあ?仕方なくヒーヒー言いながら車から降ろして台所まで運んだ。
その僕たちを見ながら母さんも慶子伯母さんもケロッとして
「おー、どうもありがとう!さすがに高校生二人がかりでも重かったみたいね」
「叔母さん、わざわざ昨日の夜に買い出しに行って、そのまま車に乗せてあったみたいだけど、あれは一体何が入ってるんですかあ?しかももう1つありますよね」
僕も美紀と同じ感想をもっていたが、それに対し答えたのは母さんではなく伯母さんの方だ。
「あー、それねー、実は私が洋子に頼んで買ってもらったのよねー。明日の昼に使うやつよ」
「「「明日の昼?」」」
「そう、明日の昼」
おいおい、明日の昼に使う物で、しかもこんなに重くて、わざわざ夕方になってから買いに行った物といえば・・・僕も姉さんも、それに美紀も顔を見わせた後、『ある物』ではないかと思いついた。
たまらず姉さんが
「ちょ、ちょっと待って!まさかと思うけど、あのドデカイ段ボールの中身は・・・」
そう姉さんがいうと、母さんも伯母さんも顔を見わせてニコッとしたかと思うと
「ぴんぽーん、だいせーかーい。恵南のディスカントスーパーで買ってきたビールやチューハイ、日本酒が入ってまーす」
「そうよー、明日は昼間からアルコールOKの日だから、洋子に頼んで買い込んできてもらったのよー」
「「「やっぱり!」」」
「どうせ買うなら安い所で大量に買った方が得でしょ?炎天下の車内に放置すると危ないから、わざわざ前日の夕方にお店に買いに行ったのよねー。あまりにも沢山買ったから店員さんに車の乗せてもらったんだけど、あのお兄さんも車に積む時には結構辛そうな顔をしてた位の物よ」
「そうそう、こういう物はお店の人に運んでもらえば十分よ」
「「「・・・・・」」」
おいおい、マジでこの姉妹、ある意味無敵だぞ。父さんも城太郎おじさんも、よくこれに耐えられるなあ・・・。
僕が今夜から使う部屋は、二つある客間のうちの1つだ。もう1つの方は母さんと姉さんが使う事になっていて、美紀は元々の自分の部屋がまだ残っているので、そちらを使う。
そういえば、美紀は僕の家に下宿しているとはいえ自分の家に荷物を残しているが、兄さんの荷物の大半は持ち出したりリサイクルショップに持ち込んだりして処分してしまい、美紀が来た時には空き部屋だったなあ。という事は、もう兄さんは恵南には戻らないつもりなのだろう。たしか大学3年になる直後くらいから荷物が殆どなくなって、空き部屋同然になったはずだ。その頃に真姫さんと同棲、まあ、事実上結婚したのだから、その時点で決断し父さんも母さんも荷物を整理したのだろう。
美紀はトキコーを卒業した後にどういう進路を選ぶのかは分からないが、もし入学式の前に言っていた通り、この摩周の坪井牧場に喫茶店や洋菓子店を開くつもりなら、自分の部屋に荷物を残していても不思議ではない。まあ、この先の進路がどうなるか分からない時点であれこれ言っても始まらないからね。
僕の部屋からは大きな牛舎がよく見える。その牛舎の向こうには広大な牧草地が広がっている。放牧地は一部で、大半は牧草地であるが飼料用のトウモロコシを作る畑地も一部にはある。でも、これだけ広大な牧草地があっても全ての飼料を賄える訳ではないので、一部はJAを経由して購入している。ただ、年々飼料代は上がっているので、これが経営を圧迫しているという話を美紀から聞いた事がある。その為の対策も色々とやっているようだが、まだ効果は表れていないみたいだ。
今日の夕食の時間は、僕と姉さん、美紀は、美紀の両親と一緒に食べた。美紀のお爺ちゃん、お婆ちゃんは、今日は休日を取っている従業員の代わりに牛舎の作業に入っていたので、僕たちが夕食を食べ終わった後に母さんと一緒に食べ、母さんと慶子伯母さんは続けて明日の仕込みを行った。
だが、母さんも慶子伯母さんも予想はしていたけど二人でビールや日本酒を飲みながら・・・いや、殆ど宴会しながら明日の仕込みをやっていたような物だから、ちゃんと仕込みは終わったけど最後は二人揃って『
僕は夕食を食べた後、シャワーをしただけで、さっさと寝てしまった。本当はもっと起きているつもりだったけど、色々な疲れがどっと出て、何もしないで寝てしまったというのが正しい表現だろう。姉さんと美紀は遅くまで話していたみたいだが、僕はそんな事も知らずに爆睡していたようだ。だから母さんたちの泥酔姿を見た訳ではなく、姉さんに次の日の朝に教えてもらっただけだ。
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