第60話 8月14日(土)みんなで持ち寄ってジンギスカンだあ!⑦

「せんぱーい、お久しぶりでーす!」

「みなさーん、遅れてすみませーん」

 そう言っ二人て並んで歩いてこっちに向かってくるのは江田さんとこえだちゃんだ。二人とも手に紙袋を持っている。

「おい、なんだこいつらは!あたいはチビが来るなんて聞いてないぞ!」

「そうですよ!わたくしも聞いてないです!!まさかとは思うけどタダ喰いではないですよね!そんな事をしたら風紀委員長として見過ごす訳にはいきません!」

 おいおい、さっきまで睨み合っていたはずなのに息を揃えて江田さんとこえだちゃんに文句を言うってどういう事だあ!?しかも実姫先輩は『女王様モード』に切り替わっているし。

「あー、タダ喰いとはひどいですー。折角サンドイッチと洋菓子を持ってきたのに、そんな事を言うならお二人には差し上げませんからせんぱいに全部食べてもらいますよー」

「先輩に向かって随分と生意気な事を言ってくれますねえ。安物のサンドイッチをわたくしに食べさせておいて自分は高級ウィンナーを食べるつもりだったのは見え見えです!」

「そうだそうだ!ニュージーランド産高級ラム肉が食べたければ、それに見合うだけの物を持って来い!」

「あー、ひどいですー。たしかにこっちのサンドイッチとクロワッサンはお店で普通に売ってる物だけど、お姉ちゃんが持っている袋はお二人が聞いたらびっくりする物ですよー」

「はあ?おい江田姉、お前が持ってる物って何だ?あたいの口に合わない物だったら帰ってもらうぞ!」

「阿笠先輩の言う通りですから早く見せなさい!」

「阿笠先輩も実姫先輩もちょっと酷いですよお。わたしも美貴もタダ喰いする気はないですよ。うちの店の一番人気のガトーショコラとトキコー祭の時のレシピを使ったティラミス、それと期待の新商品ですよ」

「「「「「「しんしょーひん?」」」」」」

「そうですよー、美紀さんが作ったレシピをベースに作ったアイリッシュチーズケーキの試作品2種類と、それを参考にしてうちのお父さんが作った道内産ハスカップを使った試作品の3種類ですよ。普通のアイリッシュチーズケーキとチョコ味のアイリッシュチーズケーキは珍しくないかもしれないけど、ハスカップ味はどこの店でも売ってないベーカリー江田期待の新商品ですから、それを販売前にタダで食べられるなんてこれほどの贅沢はないですよねー」

「「・・・・・ (・_・;) 」」

「あー、でもー、阿笠先輩はセレブですから庶民の味はお口に合わないのかもしれませんし、女王様は普段から庶民の味をお口にする事はないでしょうから、ここは無理しない方がいいかもしれませんねえ」

「「・・・・・ (・_・;) 」」

 江田さんはわざとニコニコしながら僕に紙袋を渡したけど、江田さんから皮肉たっぷりに言葉を返されたクリス先輩と実姫先輩は逆に沈黙してしまった。

「ま、まあ、あたいは庶民の味方だ。それに普段はマイスドのドーナツとかWcDのポテトを食べていて庶民の味に慣れ親しんでるから庶民のサンドイッチもチーズケーキも大歓迎だぞ」

「わ、わたくしは阿笠先輩のようなセレブではないですし、可愛い後輩を追い返すような真似をする事はいたしません」

「「ねー」」

 おいおい、さっきまでの高圧的な態度はどこへ行ったんだあ!?クリス先輩も実姫先輩も手のひらを返したかのように低姿勢になったぞ。そんなに新商品とやらを食べたいのかあ?

「あれー、もうみんな来てたんだあ」

「あらあら、皆さんいらっしゃい」

 そう言って家の中から母さんと姉さんも出てきて、それぞれがお握りや肉、野菜などを手に持っている。これで今日の参加者全員が揃った事になる。まあ、高崎先生と光希さんは別だけど。

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